
Sonnoxはイギリスのディベロッパーで、品質の良いプラグインで有名です。
2021年10月12日、ClaroというとんでもないEQを発表しました。
私的に今までEQは、使い勝手の良さからFabfilter Pro-Q3一択でしたが、Pro-Q3を超える究極に使いやすいEQが生まれた!という思いです。
この記事では、次の3つの観点から、解説していきます。
- 3つのモードから、抜群の使い勝手を実現!
- 透明な音質で、たまらなく気持ち良い!
- EQを変化させても、オートゲインでラウドネスを維持!
EQ初心者から玄人まで、皆におすすめの最強EQ。音を含めてじっくり解説&紹介いたします。
3つのモードで使い勝手が最高!
Claroは、3つのモードを搭載しています。
- Produce:3バンドEQ&ハイパス&ローパス +Width
- Tweak:一般的なデジタルEQ画面
- Mix:Claroを差しているトラック全てが一覧で表示され、被りがすぐ把握できる。
Produceモードで、大まかな音の方向性を決める。Tweakモードで、より詳細に調整。Mixモードで、他のトラックとの兼ね合いを図る。
といった流れでEQ処理を行います。それぞれを詳細に見ていきましょう。
Produceモード
Produceモードでは、上部にハイパス・ローパス(10.0・40.0kと書いてある所)と、画面中央のLow・Mid・Highの3バンドEQで調整します。
英単語で、各帯域の印象を表示しているので、EQにさほど詳しくない人にとっては助けになるでしょう。
Rumble(轟き)・Weight(重さ)・Warmth(温かさ)・Mud(泥)・Definition(鮮明度)・Harshness(耳触り)・Air(空気感)
そして画面下部では、Tone・Widthを切り替えることが出来るのですが、ここもすごく便利な所。
Widthでは、MSモードのSideだけを調整できるというものです。あえてSideだけを調整するようにしているのが、分かりやすいですね。
ただし、MS処理を安易に行うと、音源をモノラルで聞いた時に、サウンドの一部が消えてしまうなどの弊害があります。くれぐれも慎重に!
Produceモードで、大まかにEQしたら、Tweakモードに移行します。
Tweakモード
Produceモードで設定した値が、自動的に普段見慣れたデジタルEQ画面に設定されます。
これなら、「Fabfilter Pro-Q3でも出来るじゃないか。」とお思いの方がいるかもしれません。
しかし、デジタルEQは視認性の良さがある故に目で合わせがちです。Produceモードにより耳で合わせたEQが、結果デジタルEQでこのように表示されるというのは、今までのデジタルEQの感覚とは、似て非なるものです。
どちらかというと、実機を元にしたアナログEQプラグインを触っている時の感覚に近いですね。
Produceモードはあまりにも直感的で、音を決めるのがとてつもなく楽なのです。
Tweakモードでは、ダブルクリックすることでポイントを追加でき、マウスホイールでQ幅を設定など、最近のデジタルEQでは主流の操作性の良さです。
また、アナライザーも選択したノードのQに合わせて、見た目が変化します。

Qを狭くした場合は、レゾナンスが強調して表示され、切る際のポイントが見えやすくなります。(とはいえ、「絶対に切れ!」ということではなく、あくまで目印。)
Tweakモードで、より細かくEQを施した後は、Mixモードに移行します。
Mixモード
Mixモードでは、Claroを差した全てのトラックを表示できます。
右下に比較のトラックを置き、一画面で比較トラックもEQ操作可能なのが、とても便利。
被った帯域は黄色く表示されたりと、マスキング対策にも使えます。
マスキング対策は、Fabfilter Pro-Q3でも可能ですが、一覧になっていること・一画面で比較トラックも操作可能な分、Claroの方が圧倒的に便利です。
透明な音質に感動!
じゃあ、実際に音はどうなんだ?ということで、比較して聞いていきたいと思います。
今回は、ピアノ・ベース・ドラム・FX(リバーブ)の計4トラックの音源を例として作りました。4トラックにそれぞれClaroを使用し、音を整えました。
- EQ不使用
- Claroを使用
- Fabfilter Pro-Q3(Natural Phase)を使用
の音源をそれぞれ聞いてみてください。
若干もこもこしているのが分かると思います。
EQ処理によりくもりが取れているのが分かるはず。
この設定では、Cloraの透明感が圧倒的ですね。
これは、後述するオートゲインにより、EQを変化させてもCloraはラウドネスが変わらないのに対して、Pro-Q3ではEQ処理により全体の音量が上下することで聞こえ方が変わることにもありそうです。
そこでPro-Q3後、ラウドネスが変わらないように、音量調整したものが次の音源となります。
ピアノ+0.9db ベース+0.4db ドラム+0.2db リバーブ+0.6db
この音源と比較しても、やはりClaroを使った音源には上品な透明感を感じるかと思います。
余談ですが、ピアノのEQカーブは、次の設定になっています。
キーの主音であるAで、ベースやドラムと若干のかぶりがあり、少しだけ切っています。
Mixモードがあるため、こういう判断もめちゃくちゃ早くなりますね。
測定テストで違いを検証(2023/2/10追記)
以上の音質比較についての補足を追記致します。
次の画像は、「1,000Hz|+3db|Q1.0」でブーストした時のPro-Q3・Claroの違いを比較したものです。(Claroはオートゲインでゲイン変化があるため、Pro-Q3のゲインを-0.22dbしています。)

こうしてみると、同じQ幅でも、EQカーブ自体が違うことがわかります。同じEQカーブに似せるためには、Pro-Q3でQ1.273に設定する必要がありました。
これでは、同じ値を設定しても、音質が変わるのは当然ですね。
次は歪み測定です。997Hzのサイン波に対して、「1,000Hz|+3db|Q1.0」で変化を付けた時の歪みの度合いを測ります。

Pro-Q3に満遍なくフロアノイズが発生しているのが分かりますね。ノイズ自体は極めて小さな値ではありますが、こうした歪みが音の鈍りを感じさせる原因なのかもしれません。
一方Claroは歪みが全く生まれていませんね。
ちなみに上記画像のPro-Q3は、Natural Phaseを使用しています。
Natural Phase>Linear Phase>Zero Latencyの順で一番ノイズが少なくなりますが、それでも満遍なくノイズが乗ってしまいます。


完全無欠のオートゲイン!
SonnoxのWEBページでの説明には、次のような記載があります。
Auto Gain uniquely keeps your track at the same loudness, no matter the signal content or how you choose to EQ it.
オートゲインは、信号の内容やEQの選択方法に関係なく、トラックを同じラウドネスに独自に保ちます。
Sonnox – https://www.sonnox.com/toolbox/claro
EQで音をどんなに彫刻しても、ラウドネス(聴覚上の音量)が変わらないのは、本当に感動です。
というより、今までEQをした後に、音量調整をして変化を確認していたのが、すごくわずらわしいことだったと気付かされるはずです。
先程のPro-Q3のゲイン調整は、LetiMix/GainMatchというプラグインを使用しました。エフェクト前後でゲインを自動で合わせられるとても便利なプラグインですが、Claro使用後は、挿すのがひと手間と感じてしまいます。
ちなみに、Pro-Q3にもオートゲイン機能が付いているのですが、質感がまるで違っており、少しザラザラした感触があります。Claroのオートゲインはあまりにもスムーズで、クリア。
Claroの追い求めたい音を追求できる感覚は、喜び以外の何物でもありません。
EQを下げれば、オートゲインにより相対的に操作している帯域以外の音量が上がります。
ClaroによるEQ操作後に、「他の楽器と比較して、大きくor小さく感じるようになった。」ということはもちろんあると思いますし、音量調整は必要です。
ただ、EQ操作中に音量変化にだまされないのは、やはり画期的なことだと思います。
CPU負荷も軽い!

Pro-Q3とほぼ変わらず、全く負担になりません。動作も軽快。
●PCスペック
- OS:Windows10 64bit
- CPU:AMD Ryzen 9 3900X [3.8GHz/12Core]
- メモリ:64GB
- DAW:Studio One5.4
- サンプリングレート・解像度:48kHz・32bit float
- バッファーサイズ:512samples
- オーディオインターフェース:Antelope Audio Discrete4
デメリットはあるか?
現在感じる不満としては、3つですね。今後のバージョンアップに期待です。
ビューの大きさ変更
大きさは変更できるのですが、Produceモードは75%・100%・125%と固定で、これを変えると、他のモードまで縮小・拡大されてしまいます。
Tweak・Mixモードでは、自由に大きさが変えられるのに、Produceモードの大きさが連動してしまうのは不便です。
ダイナミックEQが付いていない。
Fabfilter Pro-Q3にも分があるのは、ダイナミックEQの有無ですね。
ただ、ダイナミックEQを使いたいときは別のプラグインを立ち上げればいいだけなので、このままでも良いかな。メリットの方が勝ちますね。
というより、SonnoxはダイナミックEQプラグイン「Oxford Dynamic EQ」を販売しているので、こちらが気になってしまいます。
●余談:Fabfliter Pro-Q3が持つメリット
音質については、先にも触れたように、Claroの方が透明感で優れています。そのため、音を鈍らせたい・引っ込ませたい素材については、Pro-Q3の方が向いていると感じました。
また、リニアフェイズモードが付いているので、マルチマイクで収録した素材やマスター段でも使えますね。Claroはマスターで使うより、トラックやバスで使う方が適しているように思います。
iLok認証について(2023/2/11追記)
私自身は、iLok認証は大変楽なシステムだと思っています。(PCの再インストールなどをした場合にも、いちいち認証し直す必要もありませんし。)
ですが私の環境だと、Claro……もといSonnoxプラグイン全般、DAWに立ち上げたままスリープし復帰すると、iLok認証が切れてしまうトラブルが発生します。
日本代理店からは、「スリープ前にDAWを閉じて、スリープから復帰後にDAWを立ち上げ直すように」という回答でしたが、私はDAWを立ち上げ直すのが嫌なため、現在はClaroの使用をやめて、Kirchhoff-EQをメインに使用しています。
この症状に言及しているのを、ネット上で見つけることができなかったため、私の環境固有の問題の可能性が高いです。音質・機能ともに、Claroが大変気に入っていただけに、使えないのは正直とっても残念です。
気になる方は、Sonnoxホームページからデモるなど、実際に試してみることをおすすめします。
Sonnox Claroを買うなら?
国内代理店を選ぶなら、Media Integration オンラインストアがおすすめです。ポイントが付くので、今後ポイント分値引きした金額で購入できるようになります。
国外サイトなら、PluginBoutiqueがおすすめ。無料プラグインがもらえます。
PluginBoutiqueでの購入で、6月1日夕方まで下記製品が無料でもらえます。
- Moog Moogerfooger MF-108S Cluster Flux:コーラス・フランジング・ビブラートをかけるエフェクトプラグイン
【参考記事】Plugin Boutique完全攻略!安全・お得に買う方法!
まとめ
以上、究極の使い勝手、Sonnox Claroのレビューでした。いかがでしたでしょうか?
- オートゲインとProduceモードで、耳で判断してEQできる新しい感覚。
- 何より音が良い!
- Mixで一覧で表示し、同一画面でEQ操作可能。
Claroは「EQ操作が楽しい!」と感じさせてくれます。
今までDAW付属のEQプラグインを使っていた方、私と同じようにFabfilter Pro-Q3でも十分満足していた方、見える景色が変わりますよ。
この記事を書いたのは

渡部絢也
作編曲家・シンガーソングライター
「地方にいながら、音楽でご飯を食べる」で早十数年。
東北秋田県で田舎生活をしながら、音楽にいそしむ。
メイン楽器はアコギ。歌も歌うDTMer。
・音楽制作依頼(舞台ミュージカル音楽・CMソング&BGM等)
・ブログ運営(音楽理論解説&VSTプラグイン解説)
・教材販売(使えるギターコード進行集など)
・ユニット「ウタトエスタジオ」では、ファミリー向けの作品作りも。
丁寧解説がモットー。 twitterでも、ぜひお気軽に絡んで下さい。
音楽監督作品「ミュージカル青春するべ!」
