楽曲制作過程を全公開「Exist」 ミックス・マスタリングまで!
本記事では、楽曲制作の舞台裏をお伝えします。
- 曲のテーマ決め
- DTM打ち込みテクニック
- ミックス・マスタリング
シンガーソングライターやDTMerの方々の役に立つはずです。楽曲制作の参考になりましたら、(そして楽曲を好きになって頂けたら)嬉しいです!
楽曲は、2020年4月24日にデジタルリリースしたEDM楽曲「Exist」です。
Existの概要
Existの制作期間
- 2020年3月5日~4月1日(内、実質稼働16日間)
- 総制作時間:44時間26分(toggleでの計測)
Existの構成
EDM表記だと上記のようになります。日本式だと下記です。
イントロ→Aメロ→Bメロ→サビ→間奏→Aメロ→Bメロ→サビ→アウトロ
- Exist歌詞
-
Exist
作詞作曲編曲:渡部絢也雨粒の一滴 砂浜の一粒
木々に揺れる一枚
夜空の星の一つに
Please find me.伸ばす手が宙を掴む
ひび割れた胸を押え込む
誰か私を見つけてI exist.
I’v been waiting for you all the time.白く舞い降る一片
空を羽ばたく一羽に
生きるため群れる魚
身捩り泳ぐ一匹
Please find me.枯れ果てた喉を震わせる
漏れ出した息で叫んでる
誰か私を見つけてI exist.
I’v been waiting for you all the time.
Existを作るきっかけ
Shallouというエレクトロミュージックを作るアーティストの楽曲が好きなので、Shallouのような美しい世界を曲にしたいと考えました。
特に次のことを目標にしました。
- 美しい世界観を描く。
- ボーカルのフォルマントを変えて遊ぶ。
- アコースティックな雰囲気を入れる。
曲作りの流れ
- 曲のテーマを決める
- Aメロ(BreakDown)のアレンジ
- 歌詞を書き切り、Bメロ(Buildup)のアレンジ
- サビ(Drop)のアレンジ
- 間奏(interlude)
- 2番以降
時系列順に制作過程を説明します。
1.曲のテーマを決める
私が曲のテーマを決める時には、本からヒントをもらうことが多いです。
今回は、ロルフ・ドベリ氏著「Think Smart」より、次の文章を題材にすることにしました。
私たちは、「起きていないこと」について考えるのが不得手だ。「存在しないもの」は認識できない。
この文章から想像を膨らませ、
- 「誰かに存在を認識してもらいたい」という自己承認欲求
- 自己承認欲求を、SNSで満たそうとする現代人
をテーマに据え、タイトルを「Exist(存在)」にすることを決めました。
同じく、「存在」から連想したのが、村上春樹さんの手記。
言い換えれば我々は、広大な大地に向けて降る膨大な数の雨粒の、名もなき一滴に過ぎない。固有ではあるけれど、交換可能な一滴だ。
ここから、A4用紙に歌詞を書きなぐり始めます。いきなり歌詞を書くのではなく、思いついた言葉を箇条書きで挙げます。
そして、Aメロの歌詞が完成しました。
雨粒の一滴 砂浜の一粒
Existの歌詞より
木々に揺れる一枚
夜空の星の一つに
Please find me.
通常は、最後まで歌詞を書き切った方が、内容に一貫性を持って書ききることができます。しかし、今回はこの段階でメロディーが頭に浮かんでいたため、すぐにアレンジをすることにしました。
2.イントロ
メインリフをカリンバで表現
イントロでは、以前から温めていたギターリフを、雨粒っぽい音……カリンバに置き換えてみてはどうか。という所から、はじめました。
Omnisphere2に収録されているカリンバの音もすごく良いのですが、実際のカリンバっぽいノイズも収録されており、美しい世界観を演出するにはリアルすぎると判断しました。
そこで、シンセサイザーMassiveXを使って、シンセカリンバを作ることにします。
ピアノに、ディレイ・リバーブをかなり強めにかける
幻想的な雰囲気のパッドを配置しようと考え、次に入れたのがピアノです。
原音が滲んで聞こえづらくなるくらい、ディレイ・リバーブをかなり強めにかけました。
実際の打ち込みは下記のようになりました。
2小節単位で、不安定から安定へと、動きを付けるようにしました。
3.Aメロ(BreakDown)
歌をオクターブ上で重ねる。
歌は、原音とオクターブ上の2回収録して重ねています。
歌のフォルマント変更で変化を付ける。
「うぉ~おおお~うぉ~お~」という、歌の掛け合いの太い声は、MeldaProductionのフリープラグイン「MAutoPitch」を使用。(他、フォルマントを変えているVoは全部このプラグインです。)
Key=Gなので、Gmajを選択し、オートチューンになるようセッティングしています。私の声だと、フォルマント-3近辺が気持ちよくなりました。
キックは丸みを帯びた音に。
シンセカリンバやピアノが主張のある音ではないので、キックが激しい音だと悪目立ちしてしまいます。SONIC ACADEMYのKICK2で丸みのある音を選びました。
これでもまだ主張が激しかったので、EQでオケになじむように調整しています。
4.Bメロ(Buildup)
一番苦戦を強いられたパートです。
歌詞の方向性で迷走。
意気揚々とBreakDownを作り終えたのですが、Buildupで迷走します。歌詞の方向性を見失い、アレンジを含め、何度も作り直しました。
今回のテーマは、
- 「誰かに存在を認識してもらいたい」という自己承認欲求
でした。
が、「他人に自己承認を求めるのではなく、自分で自分の存在を認められる方が素晴らしい。」という正論で頭がいっぱいになり、歌詞に入れ込もうとしましたが、うまくハマらず。
結果、人の弱さをそのまま歌にする方が、この曲に合うと判断し、歌詞を最後まで書き上げることができました。
パッド音は、実はアコギ。
Buildupの後ろにあるパッドは、アコギにWET100%のリバーブをインサートしたものです。
Shallouも、WET100%リバーブをよく使うそうなので、習ってみました。リバーブは無料配布されていたNative Instruments社のRAUM。
ウワンウワンと、音が大小しているのは、Shaperbox2というプラグインです。(現在はすでにShaperbox3が発売中。)
Buildup終わりのスイープ音は、Valhalla Shimmerで。
最後にシュワーと鳴っているスイープ音は、Valhalla Shimmerというリバーブプラグインによるもの。
リムショットの音にWET100%でValhalla Shimmerをかけています。
5.サビ(Drop)
歌詞を書いた時点で、Dropは歌ではなく、単語を連呼する形にしようと決めました。それで「I」を連呼しています。
フォルマントを変えた声を左右に振り分けることで動きを演出しました。
Dropの繰り返し時のブレイク
Dropの途中で音を抜く手法、よくありますよね。歌以外を頭一拍だけ削除したり、オートメーションで音量0にするだけで再現できます。
ベースは計4トラック
- 超低音のサブベース(MassiveX:サイン波で1オクターブ下)
- 高音域担当:Native Instruments Razor
- 中低音担当:SPECTRASONICS Tririan(Minimoog)
- 合いの手担当:SPECTRASONICS Tririan(Slap Bass)
各帯域を活かすために、それぞれいらない帯域は、EQで大胆にカットしています。
④のスラップベースの音作りは、よく出来ました。Waves factoryのSpectreというサチュレーターを使って、真空管っぽい音を付加して、音が際立つように調整しています。
6.間奏(interlude)
リバーブのMIXでシンセに変化を付ける。
間奏のシンセ音は、Future Bassでよく使われるような音色を使いました。リバーブのMIXをオートメーションで増やすことで、迫ってくるような音にしてみました。
7.2番以降
2番のBreakDown
飽きないように色々と変化をつけました。
- ボーカルをソロにしました。
- カリンバの音色をグロッケンに変更。
- Kickを抜いて、一旦静かに。
- 後半は、ベースを入れて1番との差異を付けました。
2番Buildup
1番と比べると、ピアノを削ったため音数が減りました。Dropの裏メロにもピアノが入るため、ピアノが入り続けることで、飽きてしまうのを防ぐためです。
代わりにスネアの連打を追加し、Drop前に変化をつけました。
またDrop前に、「ボーカルにリバーブをかけてリバースした素材」を貼り付け、Dropへの期待を高めました。
2番Drop以降
8小節を3回繰り返す構成になっていますが、最後はVoにディレイをつけて変化を付けました。
盛り上がるよう、アレンジ上で大きな変化を付けたかったのですが、うまくハマらず今回は断念しました。今後の課題です。
ミックス・マスタリング
全トラックで、約50ほどとなりました。
ボーカル
フォルマントをいじっていないトラック(Mic1~3、VoBUS)のミックスを公開します。
エフェクトを通す前がこんな感じです。
低音がだぶついている感じがするので、BUSに送る前に解消します。
- オプトコンプ「NI VC-2A」:飛び抜けている所のみ潰すイメージ
- EQ(fabfilter Pro-Q3):ローカット・耳に痛い所をカット
VoBUSの設定は下記の通り。
- RX7 Mouth De-click:ノイズ対策
- ディエッサー(waves):歯擦音を緩和
- Vocal Rider(waves):音量を均一化
- MaseratiVX(waves):音質をがっつり変化
- EQ(fabfilter Pro-Q3):Maseratiで耳に痛い部分が出てきたので、ハイカット。
WavesのMaseratiVXは、超おすすめのプラグインです。ボーカルが、簡単に今風のサウンドに変化します。特にBASS、TREBLEのつまみの効きがすごく良い。丁度Voが気持ちよくなる絶妙な設定です。これを、EQで再現するのは難しい。
マスタリング
ミックスが終わった段階で、大体の音のバランスは取れているので、迫力を出すためのマスタリングをします。
マスタリング前のラウドネスが-21.3LUFS。
- Zynaptiq INTENSITY(強さ0.22 MIX0.75くらい)
- エンハンサー:Waves factory Spectre(EQ的に使っています。)
- Ozone8(EQ → DynamicEQ → Imager → Maximizer)
INTENSITYは、話題の魔法的エフェクト。迫力を簡単に出すためのプラグインです。丁度セールで安く購入できました。
実際、MIX・INTENSITYを上げるとすぐに飽和した感じになるので、押さえ気味に使っています。BIAS CURVEで高音域を和らげています。
マスタリング後で-10.8LUFS。もう少し詰められそうですが、パツンパツンな音は好きではないので、今回はこれにて、完!
出来上がって思うこと
ということで、完成!!
よく出来た所
- シンセカリンバが作れた!
- フォルマントをいじったVoで遊べた。
- 2番のBreakDownは、変化を付けられて満足。
- Drop前のReverseVoなど、定番の技を実践できた。
反省が必要な所
迷走に時間を費やした
Buildupでの歌詞の迷走に物凄く時間をかけてしまいました。
メロディーが浮かんで、早くアレンジしたい!と気持ちがはやっても、我慢して歌詞を書ききったほうが良いですね。
音作りに関して
Shallouの描く美しい世界観を目指して作り始めましたが、まだ音の薄さを感じています。PADの研究が必要ですね。
まとめ
楽曲制作過程、参考になる箇所はありましたか?
今後も新曲の制作過程を公開していきます。
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