Pulsar 8200 レビュー クリアに音を前に出せるEQ
Pulsar 8200は、レジェンド機材GML8200をエミュレートしたEQプラグインです。
- クリアな音質かつ、パキッと前に出てくるサウンド
- 実機にはない、ディエッサー・チルトEQ・サブつまみ・エアつまみ
- 美しいGUI
サウンドを聴きながら、Pulsar8200に迫っていきましょう。
Pulsar8200のサウンドを聞いてみよう。
サンプル曲1:クラブ系
今回は、4小節のクラブ系のサンプル曲を作りました。3トラックです。
- アルペジオ
- ベース
- ドラム
検証にあたっては、次のような順序をとりました。
●検証方法
- EQを使わない状態で曲を作る。
- Plugin Doctor(プラグイン検証ソフト)内でPulsar8200(OverSampling4倍)を立ち上げ、音作りをする。
- Plugin Doctor内でKirchhoff-EQ(Analog Phase)を立ち上げ、Pulsar8200のEQカーブを真似る。
- GainMatchで音量を揃えて、エクスポートする。
このEQ比較手法は、中川統雄様がツイートされていた手法(該当ツイート)を参考にさせて頂きました。いつも貴重な情報をありがとうございます。
*中川様が本記事公開後の2023/5/4に、補足ツイートをしておられました。中川様の方法は、周波数特性を合わせることで、その他の要素(過渡特性、各種歪み特性、IR、位相特性、それらの時間軸上の振る舞い等)の違いをEQの個性として評価するというものです。
数値上の判断は、私自身はまだ不勉強で及ばない部分です。本記事中の検証方法はあくまで中川様のツイートを参考に、違うEQプラグイン同士の周波数特性を合わせ、デジタルEQとして評判も高いKirchhoff-EQと比較として、Pulsar8200がどういうサウンドになるかを耳で比較しようとしたものです。
以下が、音源(mp3:256kbps)です。
①バイパスは、中低域あたりが整理されていない感じがして気持ちが悪いと感じました。
②Pulsar8200を使った音源では、①を受けて中低域の整理をし、3トラックそれぞれの美味しい部分を立たせて、整理しました。
③Kirchhoff-EQでは、②のEQカーブを真似ています。
②③の比較
パッと聞いた感じ、あまり違いが分からない方もいるかもしれません。
繰り返し聞くと、違いが見えてきやすいと思います。
以下は私の感想となりますが、②Pulsar8200の方が音が前に出てきているように感じます。もっと言えば、全体的に少しだけ歪んで元気になっている印象。スネアが特に分かりやすいでしょうか。少しトゲが付いて、パキッと前に飛び出してくるような印象です。
③Kirchhoff-EQは、私が持っているEQの中では一番味付けがないEQです。②と③を比べると、③の方がキックのリリースがタイトに聞こえる印象も受けます。
2つのEQを比較すると、Pulsar8200は周波数を整えながら、音を前に出すEQである。という感触を受けました。
②と③の音源のどちらが良いかという判断は、楽曲の目指すところにもよると思います。②では、3トラック全てに使いましたが、Pulsar8200は目立たせたいトラックにピンポイントで使うのも良さそうに思いました。
サンプル曲2:生楽器を使った曲
生楽器を使った3トラック(ピアノ・ベース・ドラム)の楽曲で、Pulsar8200を使ってみました。GainMatchで音量を揃えています。
④と⑤を、聞くと全く別物に聞こえると思います。
④はそれぞれの楽器が分離して、どうにも落ち着かない感じに聞こえますね。
⑤では、全てのトラックがきっちり混じり合って聞こえていると思います。周波数特性を変えたことは要因としては大きいでしょうが、ある意味、Gule効果のように各楽器が馴染んで聞こえるように思います。
こちらのサンプル曲ではKirchhoff-EQではなく、同社のPulsar Massiveを使って、EQカーブなどをあえて真似ずに0からEQをし直してみました。道具が違えば、UIや設計思想に導かれるように違う風にMIXするものですから、あえて主観的に、自分の好きのようにMIXしています。
Pulsar Massiveは、真空管アナログEQエミュレートですので、味付けが強いEQと言えると思いますが、比較すると全く違う味付けなのが分かりますね。
⑥Pulsar Massiveは、クリーミーな歪みが追加され、色気のあるサウンドに変わっています。
⑤Pulsar 8200は、比較的歪みは少ないながらも、それぞれの楽器がパリッと前に出つつ主張しているのが分かります。
Pulsar8200の歪み
第2次倍音・第3次倍音のみ出力
歪み特性を見てみます。
下記画像では997.6Hzのサイン波をPulsar8200・Kirchhoff-EQに通した時に、どういった音の変化があるのかを調べています。(EQカーブの設定は、Drumトラックの設定のまま。)
Kirchhoff-EQは一切歪みが生まれていません。
一方、Pulsar8200は、第2次倍音1995Hz、第3次倍音の2992Hzが生まれているのが分かります。他に歪みは生まれていません。(とは言え、とても小さな値。)
入力する信号の周波数を変えても、この傾向は変わりませんでした。
下記のグラフはHammerstainと言い、Sweep信号を使って、各帯域で発生する倍音成分を確かめるもの。
ちなみに、各バンドのゲインが0の状態だと、倍音は発生しません。
追加のつまみでは、歪まない。
ちなみに、Pulsar8200には、実機にはない5つのつまみが追加されています。
これらの「HP・SUB・TILT・AIR・LP」ツマミを動かしても、倍音は発生しませんでした。
実機にある5バンドを少しでも動かすと、第2次倍音、第3次倍音が出てきます。
低域、例えばキックを調整する場合、SUB+10dBとLF:15Hz&+10dBではSUBの方が、綿にはキレが良く聞こえました。SUBをうまく使うと、キレがあるサウンドを作れそうですね。
Pulsar8200のサウンドの特徴
こうして見てみると、Pulsar8200は、
- 第2次倍音・第3次倍音を生み出すため、少し迫力が増す。
- それ以外の余計なノイズは生まないので、クリアな印象である。
ということになりそうです。
前に出したいけど、必要以上に歪ませたくない素材に対して使うと、Pulsar8200の真価が発揮できるように思います。
同社Pulsar Massiveは、生楽器のトーンカラーを調整するのに非常に楽だったのですが、電子楽器はぬるっとしてしまい使うのをためらう部分がありました。Pulsar8200は、クリアで前に出てくるため、電子楽器にも使い勝手が良さそうに感じています。
Pulsar8200の特徴・実機にはない機能
パラレルEQ
Pulsar8200は、パラレルEQです。
パラレルEQは並列処理のEQ(並列EQ)のことで、反対はシリーズEQ(直列EQ)です。
例えば、400Hz・500HzでそれぞれQ:3.0、Gain:+5dBとして、Pulsar8200とKirchhoff-EQを比べてみます。
並列EQであるPulsar8200は、EQカーブの山同士が干渉していません。直列EQであるKirchhoff-EQは、山同士が干渉して、より大きな山になっています。
他のバンドに干渉しないで操作できるって便利なものですね。作用させたい所をダイレクトで操作できる感覚です。
直列EQでは、バンドを追加することで他の部分にまで影響を与えるのだと、本記事の検証をしながら改めて学ぶことができました。
ディエッサー機能
ディエッサー機能を確かめるための本HP定番曲を使います。(*ギャグ曲です。)
ディエッサーに捧ぐ歌
酢飯好きな彼女 寿司屋勤め素敵さ
〆たサバとカサゴ 蕎麦をすすって
かなり自然に使えますね。後述するエアつまみで軽く高域を上げて、ディエッサーで軽く押さえるというのは、手としてありそうです。
このディエッサー効きがかなり強いので、値を上げるとすぐにスカスカになります。
EQしながらディエッサーできるって楽だなぁ。
追加フィルター(ロー&ハイパス・サブ&エア・チルト)
Pulsar8200には、実機にはないフィルターが幾つか追加されています。
- ローパス・ハイパス:1オクターブ辺り12dBカットするフィルターカーブ
- サブ・エア:パルテックEQP-1Aのブースト&カットを参考にした低域・高域補強
- チルト:200Hzを基点にして、全体をコントロール。
サブ・エアつまみ
パルテックEQP-1Aを参考にしたEQカーブだそう。
下記は、サブつまみを+10dBした所です。
15Hzあたりが山の頂点になり、200~400Hzあたりがくぼんでいますね。
エアつまみは、下記の通り。
2300~2600Hzくらいが、くぼみの中央になるようです。
チルトEQ
200Hzが基点となっています。
海外音楽プロデューサーの動画では、アコースティックピアノを柔らかく聴かせたい所でチルトEQで高域を下げたり、逆に硬く聴かせたい所で高域を上げたり、オートメーションさせる使い方を紹介しています。
Pulsar8200のオーバーサンプリングについて
Pulsarプラグインは、オーバーサンプリング機能が付いていますが、音が結構変わります。
オーバーサンプリングする方が、音がよりくっきり聞こえますね。
Pulsar8200を使う目的は、前述の通り「クリアでパキッと前に出すこと」ですから、最低でも2倍にして使いたい所というのが私自身の現在の感触です。
CPU負荷
オーバーサンプリング:8倍・4倍・2倍・不使用で、CPU負荷は下記のようになりました。
トラック数が多いと、作曲しながら4倍以上にするのはきつそうです。普段遣いは、やはり2倍を選択していくことになりそうです。
ちなみに、Pulsar Massiveは、オーバーサンプリングなしで8%ほどで、10トラック以上多用するとオーバーサンプリングなしでもだんだんキツくなってくるので、Pulsar8200(2倍)も同じような感触かなと思います。
●PCスペック
- OS:Windows10 64bit
- CPU:AMD Ryzen 9 3900X [3.8GHz/12Core]
- メモリ:64GB
- DAW:Studio One6
- サンプリングレート・解像度:48kHz・32bit float
- バッファーサイズ:1024samples
- オーディオインターフェース:Antelope Audio Discrete4
使用感&まとめ
記事内で触れていない所として、LF・HFのWIDTHつまみは、左に回しきるとシェルフになり、右に回すとベルになるという、便利ポイントもあります。
WIDTHは画面上部のノードの上で、マウスホイールで動かせますが、Q幅変更が重い(ホイールの動きに対して値の変動が少ない)ように感じます。 緻密に動かして使った方が良いとの判断でしょうか?
GUIは毎度ながら美しく、触る喜びを感じます。私がPulsar Audioの好きなのは、特にGUIかもしれません。
前に出したいけど、必要以上に歪ませたくない素材に対して使うのを基本方針として、今後引き続き使っていきます。生楽器等に使うのも楽しみです。