The Orchestra Complete3レビュー 機動力最高峰のオケ総合音源
Best Service The Orchestra Complete3(以下、TOC3)は、手軽にオーケストラサウンドを構築できるオーケストラ総合音源です。
- 3種類のパッチの開き方がある。(ソロ楽器・コード弾用・マルチ)
- 機動力が売りで、打ち込みが楽!
- 音はラフで荒々しく、雄々しい。
サウンドを確認しながら、TOC3に迫っていきます。
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大きく分けて3種類のパッチの開き方がある。
TOC3は、大きく分けて3種類のパッチがあります。
- ソロパッチ:弦・木管・金管・打楽器・コーラス・FXなど
- アンサンブル:ソロパッチを組み合わせ、コードを弾くだけで豪華な演奏が可能。
- マルチ:アンサンブルキットを複数組み合わせて、ど迫力のサウンドが出せる。
アンサンブルは、ソロパッチを5個組み合わせられるもの。マルチは、アンサンブルを2・3つ組み合わせたもの。(つまりマルチは、ソロパッチを10~15個くらい組み合わせている。)
それでは、それぞれを見ていきましょう。
ソロパッチ
ソロパッチはそれぞれ階層に分けて収録されています。
TOC3では、主に合奏している音が収録されています。ソロバイオリンなどは収録されていないことには注意です。
Core Articulationが、オーケストラでよく使う奏法を、キースイッチで切り替えながら演奏できるパッチです。
Pure Performance Legatoが、TOC3の売りの一つでもあるパッチで、キースイッチの切り替えなしに、レガートとスタッカートを自動的に判断して演奏できるパッチです。
Core Articulation
面白いのが、キースイッチを同時押しすると、複数のアーティキュレーションを同時に出せるんですよね。
マルカート+サスティンの方が、ふくよかに聞こえてきますよね。
別パッチを立ち上げることなくレイヤーできるのは、面倒がないですし、表現の幅が広がります。
ちなみに強弱は、CC1(Modホイール)とベロシティの併用で、ベロシティは立ち上がりの音量を調整し、CC1は立ち上がり以降からの音量を調整します。
Pure Performance Legato
Pure Performance Legatoは、ノートの長さを自動で判断して、スタッカートとレガートを切り替えます。
ここではクラリネットの例を見てみましょう。
キースイッチなしで、ベロシティ+CC1のみで打ち込めるため、とても楽ですね。
ただ、判断に時間がかかるからか、若干発音に遅れが出ます。
トラックディレイをマイナス方向に設定することで、グリッドに合わせて打ち込んでもOKとなります。
このトラックディレイの値は、楽器ごとに異なりますので、耳で聞いて判断するのが良さそうです。
アンサンブル
複数のソロパッチを一度に開くのが、TOC3のアンサンブルです。
上記の画像は、フルート・シロフォン・ビブラフォン・マリンバ・バスーンが組み合わさっています。
先程のクラリネットのデモ音源の背景も、アンサンブルでコードを打ち込んだだけのものでした。
コード進行は、Dm→G/Dです。コードを演奏するだけで、フレーズが演奏されていますよね。
どういう設定になってるかは、エンジンタブに移ると分かります。
仮に、コードDm:レファラ を弾いたとしたら、D2(レ)を0として、次のような音程で演奏されます。
数字 | 音程 |
---|---|
5 | A3(ラ) |
4 | F3(ファ) |
3 | D3(レ) |
2 | A2(ラ) |
1 | F2(ファ) |
0 | D2(レ) |
-1 | A1(ラ) |
-2 | F1(ファ) |
-3 | D1(レ) |
入力している音高を元に、発音される仕組みです。
アンサンブルパッチは、全部で670パターン収録されており、タグ付けされています。
だから「こんな雰囲気のものを……」と探すのは結構楽。
アンサンブルには、3種類のカテゴリーのプリセットが収録されています。
- Orchestral Voicing:設定されているボイシングで演奏できる。
- Orchestral Rhythms:コードを鳴らすと、刻み的な感じで演奏。
- Animated Orchestra:コードを鳴らすと、フレーズ込みで演奏。
想像しにくいのが、Orchestral Voicingだと思います。
Orchestral Voicing
Orchestral Voicingは、オーケストラの作法が分からなくても、オーケストラに向いたボイシングで演奏できるモードです。
プリセットを開くと、次のような画面になります。
Freeは、鍵盤の演奏に対して対応して発音されるということです。(ここがArpeggiator等になると、リズムやフレーズが演奏されます。)
で、赤枠の一番右に、▲や◆などの模様がありますよね。ここが肝です。
ここをクリックすると……
種類 | 記号 | 意味 |
---|---|---|
Off | 弾いたままを発音。 | |
Lowest | ▼▼ | 弾かれているノートの中で最低音を発音 |
Lowest 2 | ▼ | 1~2番目に低い音を発音 |
Middle | ◆ | 同時2音なら、最低音を発音。 同時3~4音なら、下から2番目の音を発音。 同時5音なら、下から3番目の音を発音。 |
Middle 2 | ◆◆ | 同時2音なら、最低音を発音。 同時3~4音なら、下から2番目とその一つ上を発音。 同時5音なら下から3番目の音とその一つ上を発音。 |
Top 3 | ▲▲▲ | 1~3番目に高い音を3音発音 |
Top 2 | ▲▲ | 1~2番目に高い音を2音発音 |
Top | ▲ | 最高音を発音 |
これらの組み合わせと、オクターブシフトによる音域の指定によって、ユーザーはそれぞれの楽器の音域を深く考えることなく、良い感じのボイシングで演奏できます。
そして何より、楽器の組み合わせ・ボイシングのアイデアの宝庫でもあり、とても勉強にもなります。
メイン画面右上にあるExport MIDIで、それぞれの楽器のMIDIを一括でエクスポートすることもできるので、分析にももってこいですね。
マルチ
アンサンブルを複数立ち上げた状態で開くマルチパッチ。
基本的に、アンサンブルパッチの3カテゴリーと同じような分類で階層分けされています。
- Orchestral Colors:設定されているボイシングで演奏できる。
- Orchestral Rhythms:コードを鳴らすと、刻み的な感じで演奏。
- Animated Orchestra:コードを鳴らすと、フレーズ込みで演奏。
ここでは、Orchestral Colorsのパッチの打ち込み例をご覧いただきます。
マルチパッチの、Massive Brass – Heroic Theme01を開いてみます。
TOC3は、今までのTOCの技術を積み上げてきているからか、画面上はTOC2の画面が表示されていますね。
このマルチパッチでは、3つのアンサンブル+1つのソロパッチで、計10個のアーティキュレーションが一度に立ち上がりました。
このパッチで打ち込んだ例が、次の音源です。
このように、たった1トラックで、かくも簡単にスケッチ出来てしまいます。
通常であれば、何トラックも立ち上げて準備をしなければいけない所を、TOC3ではマルチパッチ1つ立ち上げるだけ。
機動力の鬼!!
TOC3 VS Hollywood Orchestra Opus Edition
TOC3のサウンド&特徴
TOC3は、リバーブを切っても余韻を多少含みます。
TOC3 Pure Performance Legatoパッチで、リバーブあり・なしを比べます。
サウンド傾向を、日本代理店SONICWIREでは次のように説明しています。
ハリウッドより少しラフで、より自然なサウンドになるようレコーディングされました。
これは、他社のEastwest Hollywood Orchestra Opus Editionをちょっと意識した文句にも見えますね(笑)
Hollywood Orchestra Opus Editionは、音が整っていて、本格的なオーケストラのサウンドを意識して作られています。上質とか気品、という言葉が似合うイメージです。その代わり、打ち込みに手間がかかります。
TOC3は、音はラフで荒々しく、雄々しい。本格オーケストラもできなくはないですが、良い意味でザックリしたサウンドです。細かく打ち込まなくても、すぐに完成されたサウンドに到達します。
TOC3のウリは機動力
TOC3は、Hollywood Orchestra Opus Editionと違い、マイク選択はできません。
マイク選択ができる他のオーケストラ音源と比べると不便な所ではありますが、その分、容量が軽量でロードが早く、動作も軽いためスケッチに適した機動力があります。とはいえ、本チャンで使えないというわけではない。
Hollywood Orchestra Opus Editionは、キースイッチパッチばかりを読み込むと、逆に鈍重でCPU使用率が上がってプチプチ言うこともあるので、ノートPCなどで作業する場合は、TOC3の方がおすすめです。
(*そもそも、Hollywood Orchestra Opus Editionの場合は、SSDとそこそこなCPUを積んだPC必須。)
アンサンブル機能の違いは演奏感。
TOC3のアンサンブル機能・マルチに似た機能で、Hollywood Orchestra Opus Editionのオーケストレーターがあります。
どちらが良いか気になる所だと思いますが、やれることはほぼ同じ。どちらも「鍵盤弾き・リズミカル・フレーズ」の3つのモードがあります。
違いは、演奏感にあります。
TOC3の音量操作はモジュレーションホイール・ベロシティがメインです。ベロシティ対応するから、鍵盤でガシガシ弾くだけで、楽曲っぽく聞こえます。両手を使って鍵盤を弾けるので、自由度が高いです。
一方、Hollywood Orchestra Opus Editionは、ベロシティに対応した楽器・アーティキュレーションは少ないため、鍵盤だけで弾いた時の音量の変化が乏しいです。オーケストレーター時は、右手で鍵盤・左手でモジュレーションホイールを想定しているので、鍵盤演奏の自由度が低くなりますね。
鍵盤でガシガシ弾ける方は、TOC3のアンサンブル・マルチの方が性に合っているかもしれません。
VS まとめ
本格オーケストラを作りたい方は、Hollywood Orchestra Opus Editionをおすすめします。打ち込みに手間がかかりますが、細かな調整が効きます。
TOC3は「本格的なオーケストラ楽曲を作りたい!」という方より、「オーケストラのエッセンスを適度に取り入れた楽曲を手軽に作りたい!」という方に向いています。
楽器構成などを細かいことを考えずに、マルチパッチを開いたら、適当に弾いても曲になる。このラフさ加減を求める人に、かなりおすすめできます。
TOC3の収録楽器
TOC2まではピッコロが収録されていなかったようですが、TOC3では基本的な楽器は網羅されました。
その上、Morin Khuurというモンゴルの弦楽器が含まれていたり、レアな音源やFXも収録されています。(Morin Khuurは、固めのサウンドのストリングス楽器で、厳しい冬を感じさせるような音色です。)
FXには、不穏な合奏が結構な数収録されています。
打ち込みで再現するのは難しいサウンドだと思いますが、一発ですね。劇伴で使えることがありそうです。
ほか、詳しい収録楽器一覧は、SONICWIREの収録楽器PDFをクリックして見るのが良いですね。
CPU負荷
マルチパッチで演奏した時のCPU使用率です。
低いわけではないですが、負担に感じるような重さではありません。
●PCスペック
- OS:Windows10 64bit
- CPU:AMD Ryzen 9 3900X [3.8GHz/12Core]
- メモリ:64GB
- DAW:Studio One6
- サンプリングレート・解像度:48kHz・32bit float
- バッファーサイズ:1024samples
- オーディオインターフェース:Antelope Audio Discrete4
まとめ
以上が、Best Service The Orchestra Completeのレビューです。
今までオケ音源は、CC1・CC11で音色・音量を操作するのに慣れていたので、「ベロシティで音量感が変えられると、こんなに楽なんだー!!」という驚きがありました。
マルチで立ち上げてのスケッチも、驚くほど軽快で、ストレスがありません。
機動力重視される方や、オーケストラ音源を初めて買う方にもおすすめです。
>The Orchestra Complete3の金額を確認