Wavesfactory Quantumレビュー 創造力爆発!トランジェントシェイパー+マルチFX
Wavesfactory Quantumは、アタック・サスティンに切り分けて、それぞれに様々なエフェクトをかけられるマルチエフェクトVSTプラグインです。
トランジェントシェイパーとしても優秀で、音量操作はもちろん、アタック・サスティンを切り分けたEQ操作ができます。
また、コーラス・フェイザー・ディレイ・リバーブ・トレモロ……などの計16個のエフェクトを、アタック・サスティンにそれぞれにかけられるため、簡単に今までにない音作りができます。
弱点や、他のトランジェントシェイパーとの比較もしていきながら、ユーザーの創造性を爆発させるQuantumの魅力をお届けします。
Quantumに含まれるエフェクト
Quantumは、アタック・サスティンに分け、それぞれに様々なエフェクトをかけられます。
アタック・サスティンの切り分けは、Wavesfactoryの最先端技術を使い、スレッショルドのノブなしに自動で行われます。特に、ドラム・パーカッションに対する切り分けは、かなり良いですね。(ただし、後述しますが、楽器に使う場合は少し注意が必要です。)
搭載しているエフェクトの数は16種類。
- エフェクト一覧
-
EQ系
- EQ:5バンドEQ
- エンハンサー:ハイシェルフ・ローシェルフで、歪み+EQ
ダイナミクス系
- コンプレッサー:VCA
- リミッター
歪み系
オーバードライブ的な甘い歪みではなく、尖った感じの歪みが得意。
- サチュレーション:歪み付与
- Lo-Fi:ビットクラッシャー
モジュレーション
- コーラス
- フェイザー
- フランジャー
- トレモロ:音量変化
- ピッチシフター
- ビブラート:ピッチの揺れ
空間系
- ディレイ
- リバーブ:デジタルリバーブ
- コンボレーションリバーブ:IRデータインポート可能
ユーティリティ
- ステレオツール:LR・MS処理
Quantumのサウンド
バイパス・Quantum音源比較
検証用に4小節の楽曲を作りました。
- ボーカル:生録 *「Quantum Wavesfactory~♪」 と歌ってます。発音は見逃して下さい。
- Pluck:UVI Falcon Expansion Lofi Dreams
- Lead:同上
- Bass:同上
- Drum:UVI DrumDesigner
ベースを除く、4トラックにQuantumを使用して、どれほど変化があるか。どんな音作りができるかを見ていきます。
②は、えげつないほど音が変わっていますね。変化の違いはQuantumだけです。ちなみにボーカルには次のようにQuantumをかけています。
各トラックでは、GainMatchというプラグインで、エフェクト前後の音量が変わらないようにしています。
他のプラグインで代用できるか?
Quantumがないと、②のような音作りは出来ないのかな?と疑問に思ったので、Quantum内で使ったエフェクトを他のプラグインでチェーンで組んで再現してみました。
聴き比べた時に「③の方が好きだ。」という方もいるかもしれません。
ただ、よくよく聞くと②Quantum使用音源の方が空間に余裕があるんですよね。すっきりしてる。
それはそのはずで、Quantumを使うと、アタックだけにディレイ・リバーブをかけられるので、サスティン部分に対するもっさりとしたリバーブが生み出されないからです。
で、そもそもの話です。
Quantumがなければ、こんなミックスをしようと思えなかったはずなのです。
- Vocalのサスティンに、ピッチシフターかけた後に、トレモロ。
- Drumのアタックに、フェイザーをかけて独特の質感に。
- Pluckのアタックに、リバーブをWetぎみにかけ、ディレイ。最後にフェイザー。
一つのプラグインの中で、手軽に16ものエフェクトを組み換えできるからこそ、今までやっていなかった音作りを創造的に行える。
これがQuantumの一番の強みです。
Quantumを深堀りして考える。
トランジェントシェイパーとしての力
ここではドラム素材を使って、純粋なトランジェントシェイパーとしての力を確認します。
まずバイパスの状態から。
この素材に対して、サスティン部分のゲインを下げることで、デッドな素材にしていきます。
これらを比べた時に、異質なのが⑤Eventide SplitEQで、デッドになっていないのが分かります。SplitEQは、Structural Split™テクノロジーという手法で、時間&周波数軸でトランジェントとトーナルに分離して操作するEQです。EQとしてはかなり自然な処理が可能ですが、トランジェントシェイパーとしては使いづらいです。(というかEQですもんね。)
一方、Quantumを含む通常のトランジェントシェイパーは、時間&音量軸で音を分離します。ドラムをデッドにする処理については、⑥⑦の方が優れていますね。
⑥と⑦を比べると、⑥Quantumのスネアのゴーストノートが若干途切れている部分も見受けられます。この部分については⑦Transient masterの方が自然かもしれません。しかし⑦の音質変化が、私的にすごく苦手な音なんですよね。ハイハットに注目すると、くぐもっているのが分かります。
Plugin Doctorで歪み具合を調べると一目瞭然です。
Quantumは音質変化がかなり少なく、高音域が活き活きしているように聞こえます。
Quantumの弱点&得意なトラック
ここまでで、創造性を刺激し、音質も良いQuantumの凄さは、分かってもらえたかと思いますが、Quantumにも苦手な部分が2つあります。
1つ目がトランジェントが少ない素材には対応できないこと。例えば、パッド系・フルートなどの吹奏楽器は、アタックがないので、そもそもQuantumには向きません。
2つ目が、トランジェント・サスティンのあるピアノのような楽器で、音が重なるとアタックを感知できなくなることです。特にピアノでサスティンペダルを踏んだままの演奏では、サスティンばかり検出し、プチプチとノイズが出たりもします。(こういう素材に対するEQ処理がSplitEQは自然にできます。)
以上から、Quantumが得意なトラックは、
- ドラム
- パーカッション
- トランジェントがあり、かつ和音ではなくソロでメロディーを演奏するもの
- 和音で使うならサスティンが短いPluck系
です。
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操作説明
各エフェクターの操作は、見れば分かる部分が多いので割愛します。
ここでは主に検知に関する操作説明をします。
画面中央ノブ
- Sens.:トランジェントが検出されすぎたら下げる。もっと検出したいなら上げる。
- Mode:トランジェントが急すぎてクリック音が鳴る時に、クロスフェードを追加してクリック音を抑える。
- Decay:アタックパートとサスティーンパートのクロスフェード時間。
- Hold:0~100ms。検知と検知の間の最短時間を設定。細切れに何度もアタックを検知する時に長くすると良い。
- Beats Shown:グラフ表示されるスピードを変更する。
一番大事なのは、Decayの設定ですね。アタックの音の長さをどれくらいにするかを設定します。
クリック音が発生する際、Modeである程度緩和出来るとは言え、やはり素材の向き不向きの方が大きいです。
使い方のコツ
同じフレーズでも、1回目はアタックと認識したのに、2回目は認識しない。ということがありました。
これは、ベロシティや素材の音量の強弱が若干異なるのが理由です。
解決法としては2つあります。
- 1回目と2回目のベロシティを揃える。
- Quantumを挿す前に、Vocal Riderやコンプレッサーなどで音量を揃える。
こうすれば検出が一定になりやすいので、思ったサウンドを作りやすくなります。
CPU負荷
立ち上がるまで、ちょっと時間がかかります。立ち上がりの状態でのCPU負荷は0%。
エフェクトの種類に応じて、CPU負荷が高まります。
Voトラックへのレイテンシーが、53.3msありますが、これはピッチシフターが作用しています。
●PCスペック
- OS:Windows10 64bit
- CPU:AMD Ryzen 9 3900X [3.8GHz/12Core]
- メモリ:64GB
- DAW:Studio One5.4
- サンプリングレート・解像度:48kHz・32bit float
- バッファーサイズ:512samples
- オーディオインターフェース:Antelope Audio Discrete4
トラックをソロで視聴
最後に、Quantumの凄さが分かりやすい、トラックのソロを聞いて頂きます。
ドラム
トリップするようなサウンドで、気持ちよくありませんか?
フェイザーによる微妙なうねりがありつつも、サスティン部分の芯が残り、ドラムとしての軸がぶれていません。
リード
こちらはサスティン部分にフェイザーを使って、微妙なうねりが加わっています。
アタックに対するピンポンディレイで、気持ちが良いリズムになっていますね。
ボーカル
Quantumのトレモロは、位相変化によるステレオ化ができるのが面白いですね。
これによりピッチシフターをかけた後に、ステレオ化できているわけです。
まとめ
以上が、Wavesfactory Quantumのレビューです。
音作りがあまりに面白いので、いつの間にかCPUを結構食ってしまうのが玉にキズです。
素材を選ぶのが弱点ではありますが、シンセで作るLead・Pluck系サウンドには向くと思います。
特にクラブ系のジャンルの楽曲を作る作曲家・トラックメーカーにとっては、自分の創造性をどこまでも追求できるたまらないエフェクトです。