oeksound bloom レビュー オートEQ+指定帯域調整+マルチバンドコンプ
oeksound bloomは、アダプティブトーンシェイパーです。
「アダプティブ=適応する」という意味で、挿したトラック・バス・2Mixのサウンドに応じて、自動的に変化するトーンシェイパー。その中身は、オートEQであり、上方&下方マルチバンドコンプであり……。
既存プラグインでいえば、「Gullfoss+指定帯域調整機能+OTT」のようなイメージでしょうか。
サウンドを聴きながら、Oeksound bloomに迫っていきましょう。
サウンドを聞いてみよう。
テクノ系の3トラックのサンプル楽曲です。
- ドラムバス
- ベース
- アルペジオ
それぞれのトラックにかけた後、マスターにも使っていきます。
個々のトラックにかけていく
ドラムバス
②の方が、バランスよく聞こえるという方が大半かと思います。特に低域のゴニャゴニャっとした所がすっきりしましたね。
bloomの画面上の大きなグラフは、原音からの相対的な音量変化の量を表します。
↑この画像では、100Hz付近の音量は原音に比べて下がっており、他の帯域は上がっていることが分かります。
右上にあるトーンコントロールが、とても直感的。
トーンコントロールが全て初期値の0だとしても、左のノブのamount(全体的なかかり具合)が0より大きければ、オートEQが動作します。
トーンコントロールは、オートEQにプラスして、使用者が各帯域を意図的に増減させたいように動作させるものです。内部処理的には、各バンドが相互作用になっているそうで、一つのバンドを動かすことで他の帯域にも影響を与えるとのこと。
トーンコントロールを動かすことで、滑らかに音が変化するのが、とても気持ちが良いです。
ベース
③の元のベースが、かなりビリリと高域が立ったサウンドです。
④では、bloomで高域を削って、耳触りの良い音になりました。
ここで驚きなのは、メタリックなリバーブ音には、ほとんど作用していない所です。
静的なEQで処理してしまうと、実音もリバーブ音も全てがくすんでしまいますよね。
⑤は⑤でありですが、ここでは、bloomがどうしてこのような音にすることができるかに着目します。
それは、attack・releaseの設定ができるからです。
- attack:変化する速さのコントロール
- release:変化した後の速さのコントロール
↑の画像の設定で言えば、attack0なので、高域でビリリとした音が鳴ったら、すぐに高域がカットされる変化があり、それなりに速く戻るという設定になります。
attack・releaseをうまく活用すると、ボーカルのアタック音の印象は変化させずに、モダンなキラリとしたサウンドに変化させられます。下記、公式ビデオの該当箇所をぜひご覧ください。
アルペジオ
こちらは、attackを遅めにすることで、アタック音が鋭くなりすぎないようにしてみました。
⑦は全体的に垢抜けない音でしたが、⑧ではシュッとしつつも、耳に優しい音になっていると思います。
ミックス
それでは、3トラックのbloomを全てバイパス・オンで聴き比べてみます。
⑨では、ビリビリくるベースだけが目立って飛び抜けてきたり、アルペジオがもったりとしていて、全体的にチグハグな印象です。
⑩では、それぞれの音が調和している感じがしますね。
それでは、最後にマスター段で使ってみます。
マスター段への使用
⑪は、⑩よりもキックのドスドスという感じが増しています。
これは、amount7.0より大きい時に動作するsquashという上下方向に作用するマルチバンドコンプの影響です。
squashのThresholdは、等ラウドネス曲線を元に設定されています。上下方向のマルチバンドコンプなので、amountの値を上げるほど、等ラウドネス曲線に近づいていく動作という理解で良いかと思います。(が、かなり効きが強いので、mixの値も合わせて設定するのが良さそうです。)
オートEQ自体は、信号レベル依存ではありませんが、squashはレベル依存です。適正なレベルで動作させるために、squash calというパラメーターがあります。素材を再生しながらsetボタンを押すと、自動的に数値が変化します。
wet trimは、wet音と原音が同じレベルになるように調整するものです。原音とwet音がゲインマッチした状態で聴き比べられるので、bloomの効果が分かりやすくなります。(ただし、他のゲインマッチできるEQと同様に、ゲインマッチしてからフェーダーを動かすのが好きな方もいれば、そうでない方もいますので、必ず使うべきだとは思いません。)
他社プラグインとの比較
似ているプラグインにはどんなものがある?
bloomを触って、似ている他の様々なプラグインが頭によぎりました。
- SoundTheory Gullfoss:オートEQ
- Wavesfactory Equalizer:32バンドのオートEQ
- sonible smart:EQ4:自動EQ+アダプティブ
- Eventide SplitEQ:トランジェント+トーナルに分けたEQ(bloomで言えば、attack・releaseで時間制御できる所が似てるかと。)
- Fabfilter Pro-Q3:ダイナミックEQ機能
- Kirchhoff EQ:ダイナミックEQ機能
- OTT:上方&下方マルチバンドコンプ
- Fabfilter Pro-MB:マルチバンドコンプ
- Techivation M-Compressor:スペクトラルコンプ(上方もあり)
ジャンルの違う様々なプラグインの要素を、bloomは内包しています。
試しに、smart:EQ4を各トラックに、Gullfossをマスター、そして最後にバスコンプ(Cenozoix)でまとめたものを聞いてみましょう。
⑫は、sonible smart:EQ4の影響が大きく、各帯域のマスキングを考えた上でのEQingにより、かなりスッキリしている印象です。もちろんGullfossの影響もありそうです。バスコンプの影響で、キックもドゥンドゥン言ってます。
⑫をMixした後、⑪はまだ改善の余地がありそうだと感じました。若干被りが強すぎるのと、マスターでsquashし過ぎかな?と。
Mixのやり直し
そこで、3トラック&マスターに、0からbloomを使ってMixし直したのが、次のものです。
すっきりとしたミックスになりましたね。
今回、アルペジオ・マスター段ではMS処理をしています。中域以上でSideを増やす設定にしました。(MS処理する場合は、Sideを上げることで、モノラル音源化した時に音が消えてしまうこともあるので、モノラル化して聞き比べながら使用を決めましょう。)
ただ、⑫のバスコンプCenozoixで得られたキックのドゥンドゥンという感じは、やはりコンプ特有のもので、bloomで同じようにするのは、私には難しかったです。
まぁ、実際の作業においてはbloom縛りMixはあり得ないと思いますので、ここではbloomを使ってここまで音作り出来たということを参考頂ければと思います。
「bloomは他のプラグインを全て駆逐する」ということではなく、共存しながらも、より早くゴールにたどり着くための道具という印象を私は持っています。
すでにある楽曲のMixに使った例
ちょうど昔の楽曲をMixする機会があったので、bloomを使ってみました。これまた「ぬりぬりのうた」というコミカルな曲で、気が抜けますが。
複数のトラックに使いましたが、特に声(コーラス)の変化に息を呑みました。
コーラスバス
「ぬりぬ~り」というメインのコーラスバス(声を4つ重ねている)のON・OFFを聴き比べてみましょう。
この場合は、下地としてコンプ・EQ・コーラスエフェクトをかけた後、最後のひとふりとして使っています。
- バスがまとまり一体感が出ている。
- 時おり音量差を感じたそれぞれの声が均等な大きさに聞こえる。
- 高域の抜けが出ている。
特に、グルー効果が凄まじく、驚かれる方も多いのではないでしょうか?
0から設定しましたが、やはり、トーンコントロールの値に対する変化がすこぶるよく、わりとすぐこの設定にたどり着くことができました。
マスター段
マスター段では、Gullfossや他のコンプも併用しての作業です。
amountを抑えながら使うと、やはり全体的に落ち着きが出て、かなり良い効果が出ているように思いました。
いや、これはヤバいですね。
使えまくるじゃないですか!!
squashは使っていませんが、全体的に均(なら)されるような効果があり、かなり耳触りが良い音に変化したと思います。楽すぎでしょ、これ。
もしかしたら、エンジニアの方々にとっては、このようなブラックボックスのあるプラグインは好きじゃない方もいるかもしれません。
が、作編曲家・シンガーソングライターなど、自分で作って自分でミックスされる方にとっては、相当な時短+クオリティの確保ができるプラグインなのではないかと思います。
bloom使用しての感想
まず、挿しただけで音が明瞭になります。これはGullfossなどと同様の効果ですが、bloomはトーンコントロールを使って、即座にトーンを変更できるのが素晴らしいと思いました。
なんというのでしょう……。
つまみを変化させると、反応が極めて滑らかですぐに応答してくれます。
この操作感は、実際に試して頂きたい所です。
ただ、トーンコントロールの値は相互作用もあるとのことで、少し変えるだけで、結構音が変わる印象です。(トラックにおいては、それくらいの効きの強さが嬉しい。)
各トラックに使う場合は、最初に使うのもよし、コンプ・EQ等の下ごしらえをした後に使うのも良しです。所どころ飛び抜けた音量を押さえるために本来必要だったコンプやダイナミックEQは、bloomがあれば十分という場合もたくさんありそう。
一方、今回の「ぬりぬりのうた」のMixのように、マスターで使う場合は下準備をした上でamount3以下で運用すると、高い効果が得られると感じました。(マニュアルにも記載されていますが、amount3までは、繊細な調整用とのこと。)
quarityがnormalの場合は、CPU負荷が2~3%と、この多機能さのわりにかなり低いと感じます。トラックにおいても、積極的な使用ができそうですね。帯域を絞った処理もできるので、多段使用もありです。
squashは無理に使おうとしないで、潰れた音が欲しい時に使うのが良さそうに思いました。
また、attack・release設定で、時間軸を使ったトーンシェイプができるのは、特に面白いと感じた所です。
オートEQ・ダイナミックEQ・マルチバンドコンプ・ディエッサーなど、それぞれの効果自体は、思いつくプラグインが多々ありますが、複合されて一つのプラグインになることで、「こんなに新感覚になるのか!」という驚きがあります。
CPU負荷
設定によって、変わってきます。
qualityは、処理の位相応答と時間分解能に影響するとのこと。
●PCスペック
- OS:Windows10 64bit
- CPU:AMD Ryzen 9 3900X [3.8GHz/12Core]
- メモリ:96GB
- DAW:Studio One6.5
- サンプリングレート・解像度:48kHz・32bit float
- バッファーサイズ:1024samples
- オーディオインターフェース:Antelope Audio Discrete4
まとめ
以上が、oeksound bloomのレビューです。
素材を選ばず何にでも使える一方、自分の思い描くサウンド像をきちんと持っている人こそbloomを使いこなせそうです。(って、それはほとんどのプラグインがそうなんですが。)「勝手に音が良くなる簡単プラグイン!」というわけではなく、自分でbloomを導く必要があるということですね。
使用者の力量が問われるプラグインは、ある意味、使うことで使用者の力量を育てるプラグインでもあると思います。soothe2しかり、bloomもなんともoeksoundらしいプラグインだと感じました。
またひとつ、魔法のようなプラグインが生まれてしまいましたね。