Toontrack Hitmaker SDX レビュー 最高にスタンダードなサウンド
Hitmaker SDXは、Toontrackのハイエンドドラム音源Superior Drummer3の拡張音源です。
- 特にミディアムテンポのポップスに向くサウンド
- ゲートリバーブの効いた80年代のサウンドが欲しいならマストバイ
- 電子ドラムも収録。(テープに収録→リアンプのRECで空気感のある音!)
監修はHugh Padgham氏。フィル・コリンズやスティングを担当した名エンジニアが、制作に協力しています。
ロック過ぎない、だけど芯があるスタンダードなサウンドで、Clean Kitsを出発点として、様々な楽曲に使えます。
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サウンドを聴いてみよう!
Clean Kitsを少しエディットしたサンプル
まずは、ポップス的なバッキングに合わせるパターンを聴いて頂きます。
キット全体に芯があり、埋もれない強さがありますよね。
行った調整は、Clean Kitsのスネア・キックを好きな音に差し替えて、アンビエンスマイクを足して、スネア・タムにリバーブを追加したくらいです。複雑なことは一切してません。
汎用性のある物凄く良い音です。ため息がでるレベル。
Hugh Padgham氏のプリセット
監修のHugh Padgham氏の代名詞、ゲートリバーブが使われたプリセット「Gated Snare」を試してみます。
凄まじく良い音がするんですけど……!!
こういったパッドで空間を埋めていて、フレーズ的な上モノが少ない楽曲は、特にゲートリバーブが効きますね。メロディーのフレーズがなくても、スネアが歌っている分、耳に飽きが来ない。
Hitmaker SDX 収録キット解説
収録内容概要
Hitmaker SDXは、Superior drummer3上で、2つのライブラリに分かれて収録されています。
Hitmakerの方は、6つのドラムキット+キック・スネア5種ずつ。
Hitmaker Machinesの方は、電子ドラムキットが収録されています。
Hitmakerライブラリのプリセット
Hitmakerライブラリの、プリセットは全部で42個収録されています。
Hitmakerライブラリの収録キット
- Center Stage Kit
- New World Kit
- Red Hot Session Kit
- Red Hot Concert Kit
- Story Teller Kit
- Reggae Rock Kit
Center Stage Kit
フィル・コリンズを意識して作れられたキット。
スタンダードな音がしますね。スネアが割と重心の低い音なのが特徴的。
New World Kit
1987年・1991年リリースのスティングの作品制作時のドラマー:マヌ・カッチェにインスパイアを受けたキット。
ハイハットの音が特徴的で、クローズが特に減衰が短いです。
Red Hot Session Kit
80~90年代に良く演奏されていたドラムキットを再現。
キックのビーターがフェルトなのが、音に良く現れていますね。トランジェントが丸くて、サウンドが太いです。
Red Hot Concert Kit
コンサート用タムが揃ったYAMAHA9000キット。
Session Kitに比べると力強い音に聞こえます。
Story Teller Kit
1993年・1996年にスティングの作品を制作時のドラマー:ヴィニー・カリウタが演奏したドラムを再現。
他のキットに比べると音が固めで芯があります。
Reggae Rock Kit
1970年代後半ポリスの最後の2枚のアルバム制作時のドラマー:スチュワート・コープランドがレコーディングに持ち込んだのと同じモデルのキット。
スネアの軽い音と、タイトなタムが特徴的。
Hitmaker Machinesのプリセットと収録内容
Hitmaker Machinesライブラリ内には、22種類のプリセットが収録されています。
Hitmaker SDXにまつわる諸々
Hugh Padgham – ヒュー・パジャムとは?
Hitmaker SDXを監修しているHugh Padghamとは、どんな人物なのでしょうか?
日本代理店SONICWIREでは、80年代のサウンドを決定づけたプロデューサー/ミキサー/エンジニアと紹介しています。
フィル・コリンズ、ジェネシス、ポリス、スティングの代表的な楽曲をエンジニアリングしてきました。
特に、下記楽曲は有名かつ、ドラムサウンドの特徴が分かると思います。
序盤はゲートリバーブのかかったスネアリムの音で、2:25からは派手にゲートリバーブのかかったスネアが聞こえてきます。かなり特徴的なサウンドなので、一度聞けば「なるほど!」と思えるはず。
また電子ドラムと生ドラムを融合させたサウンドも、ヒュー・パジャム氏の代名詞です。
この曲は、3:40ほどまでは電子ドラムのサウンド、そこからはゲートリバーブを強くかけた力強い生ドラムサウンドで、楽曲を強く演出しています。
収録スタジオ「British Grove Studios」
HITMAKER SDXが作られたのは、ロンドン西部にあるブリティッシュグローブスタジオ。
Nick Cave、U2、Roger Waters、Sting、Razorlight、Kaiser Chiefsなどのアーティストが使ってきたスタジオで、自然なアンビエンスサウンドが特徴とのこと。
マイク配置
下記のようなマイク配置で収録されています。
注目は、SCT4021 BALL&BISCUITです。
このマイクは、元々コントロールルームとのトークバック(連絡)用のマイクだったのですが、ここで収録される音は、ディストーションがかったような歪み感&絶妙な空気感を持ち合わせていました。そこで、実際にドラムに混ぜて使ったという逸話があります。
Mashine Kitsの収録方法
電子ドラムは、一度テープに録音後、それらをアンプから鳴らして、上記の図と同じような配置で録音し直したものです。
そのため、電子ドラムキットもアンビエンスマイクの調整が可能です。非常に馴染ませやすいキットとなっています。
他のSDXとの比較
他のSDXの私見
私が他に所持しているSDXは、以下5つ。
- Decades SDX
- The Rooms of Hansa SDX
- Fields of Rock SDX
- Stockholm SDX
- Stories SDX
Decades SDXは、Al Schmitt氏が監修。コアライブラリや他のSDXに比べると、出音がすごくまろやか。ブロードウェイミュージカルで使われるようなキットが収録されているので、ジャズ、ビッグバンドなどの楽曲を書きたい人にとっては、喉から手が出るほど欲しいはず。
The Rooms of Hansa SDXは、ハンザスタジオで収録された拡張音源。EZ Drummer3も同じ場所で収録されていて、傾向は似てますが、圧倒的にThe Rooms of Hansaの方がキメ細かく気持ちが良いです。デフォルトのドラムからして、圧倒的に低音域が出ています。私的にタイトなキットは、特に創作意欲が刺激されます。
Fields of Rock SDXは、荒く野太いサウンドが特徴です。ジャンルは結構幅広いです。メタル系ではなくインディーロック的なサウンドであったり、音数の多い日本のポップスでも抜けそうなサウンド。ディスコに向くキット(私のお気に入り!)、あとModern Studio Kitでは、比較的オールマイティなサウンドも。パーカッションがあるのもポイントですね。
Stockholm SDXは、重心が低くザラッとしたサウンドが特徴。インディーロック系は特に合います。派手さはありませんが、汎用性が高く堅実な黒子的な仕事をしてくれます。BPM120~145ほどのドラムパターンも、これまた汎用性が高く、触るほどに好きになる拡張です。特に、ドラムが主張し過ぎない方が良い楽曲には、本SDXはかなり向いています。
Stories SDXは、オールマイティなライブラリです。4つのライブラリに分かれており、得意ジャンルが違います。本当に様々なジャンルに使えるキットで、Core Library2と言っても過言ではない内容。繊細かつ芯があるサウンドが本当に魅力的です。
Hitmaker SDXは?
Hitmaker SDXは、どうなのか。
Hitmaker SDXは、ポップスに向いていると感じます。ロックならロック向きのSDXを使えば良くて、特にミディアムテンポのポップスに向く印象です。
Clean Kitsが使いやすい!!
Hitmaker SDXのClean Kitsは比較的ドライな(アンビエンスマイクをあまり読み込んでいない)状態で読み込まれ、必要に応じて響きを足していくのが物凄く扱いやすいと感じました。Clean Kitsで読み込んだ状態で既に芯があり、本当に使いやすい音です。出発点がきちんと出発点。年代を問わず最近の楽曲にも問題なく使えるサウンドです。
コアライブラリにも、POPS/ROCKのカテゴリのプリセットがありますが、Premier Rockというプリセット以外は、Wetで柔らかなめなサウンドも多く、そのまま使えるプリセットは少ない印象です。また、音作りの出発点のClean Kitsもアンビエンスが多く、逆にアンビエンスマイクを切っていく所から始める必要があります。(アンビマイクを切った状態のユーザープリセットを作るのもおすすめ。)
高域の緻密・繊細な美しい響きは、コアライブラリ特有の素晴らしさがあり、そこはHitmakerでは表現できない部分です。Hitmakerは、硬めの芯のある音が特徴ですので。
Hugh Padgham氏・Toontrack のプリセット
Hugh Padgham氏のプリセットは、ゲートリバーブの効いた年代を感じさせるプリセットが多いですね。この音を求める場合は、確実に役に立ってくれます。
Toontrackのプリセットは、同じくゲートリバーブの効いたプリセットや、90年代ポップスの音、パンクロック向けなど、もう少し幅広いサウンドが収録されています。
Mashine Kitsは?
テープに収録後、アンプで鳴らしてマイク収録という手順で作られたキットなので、空気感があるサウンドが特徴です。
試しに、TR808をサンプリングされたUVI Prime8+と聴き比べてみましょう。
UVI Prime8+はクリーンなサウンドがウリで、リバーブを付けると美しく聞こえます。
一方、Hitmaker SDX Mashine Kitsは、リバーブではなく、収録のアンビエンスマイクでリバーブ感を演出しています。
音の傾向はすぐ分かりますよね。モダンなサウンドを作りたいなら、前者の方が作りやすいでしょう。
一方、空気感を持たせて生ドラムなどと混ぜたい場合や、電子ドラムを入れたいけどあまり表に出したくない場合は、Hitmaker SDX Mashine Kitsはすぐにハマります。
まとめ
やはり私的には、ミディアムテンポのポップスを作る時に、Clean Kitsを出発点に音作りして使いたい印象です。
このロック過ぎない、だけど芯があるスタンダードなサウンドは、他のSDXにはなかったサウンドだったのではないでしょうか。
【2023年5月追記】仕事での使用例
仕事でHitmaker SDXを使用しました。
ミュージカルの楽曲です。
詳しい制作秘話は、こちらのページでしていますが、音はDefault状態から、ドラムセットを選んで、自分でプリセットを組んだもの。リバーブは、プレート・ルームの2つをかけています。
プレートリバーブは特に、テープシミュ・コーラスなどを使って質感を整えているのと、サイドチェインコンプで、リバーブがスネアに覆いかぶさらないようにしています。
CPU負荷
軽いです。
●PCスペック
- OS:Windows10 64bit
- CPU:AMD Ryzen 9 3900X [3.8GHz/12Core]
- メモリ:64GB
- DAW:Studio One5.5
- サンプリングレート・解像度:48kHz・32bit float
- バッファーサイズ:512samples
- オーディオインターフェース:Antelope Audio Discrete4
まとめ
こんなスタンダードなサウンドのドラムが欲しかった!
Toontrackは、またもやってくれたな。という思いですね。
SDXの中でも、特におすすめしたいライブラリです。
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