AIR Studios Reverb / Spitfire Audio レビュー 伝説のホールを再現する。
AIR Studios Reverbは、オーケストラ音源で有名なSpitfire Audioが初めてリリースしたエフェクトプラグインです。
- 映画音楽で有名なLyndhurst HallのIRリバーブ
- 楽器を自由に配置し、音が出る方向まで指定できる。
- 8つのマイクバランスから、音作りする。
既存のリバーブプラグインとは、一味違う楽器配置&音の方向指定に、舌を巻きました。サウンドを聴きながら、AIR Studios Reverbに迫っていきましょう。
サウンドを聴いてみる。
今回は、短めなエピックなサンプル楽曲を作ってみました。
あえて、音源メーカーもバラバラに選び、マイクバランスを調整できる音源でも、できるだけドライなマイク設定にしています。
- 音源リスト
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- 声サンプル:Hollywood Fantasy Orchestra Bundle
- ピアノ:Ravenscroft275
- ローストリングス:Spitfire Chamber Strings
- オーケストラ素材:Hollywood Orchestra Opus Edition
- エレキ:Three-Body Technology Heavier7Strings
- ベース:IK Multimedia Modo Bass2
- ドラム:Superior Drummer3
- パーカッション:Cinesamples CinePerc
- エピックパーカッション:Heavyocity Damege2
当たり前ですが、②は、全く深みが違うと思います。
音源それぞれが調和し、一貫性を感じる響きになっています。
ただ、
「どんなリバーブプラグインでも、オン・オフしたら変化して聞こえるよな……?」
と、思う方もいるでしょう。
実際、その通りです。
特にリバーブは、プラグインによって設計思想が全く違うので、ただ単に差し替えるだけでは比較ができない難しさがあります。
というわけで、今回はAir Studios Reverbの特徴と、私がどういう所に気をつけながらミックスをしたかを、順を追って説明していきます。
Air Studios Reverbの特徴
Lyndhurst Hallでの録音をシミュレーションする。
Air Studios Reverbは、映画音楽のレコーディングでも有名なLyndhurst Hallの響きをシミュレートできます。
- 約300㎡の6角形のホール
- 天蓋(Canopy)の位置・素材を変えて、響きを変えられる。
- 2F部分の客席に吸音材を置いて、響きを調整できる。
- 作曲家ハンス・ジマーは、客席と反対方向を向いて収録することも。
Air Studios Reverbは、こうした特徴を、画面上部で再現できます。
例えば、天蓋素材(CANOPY MATERIAL)では、木・メラテックの2種類を選べ、メラテックの方が残響が短くなります。
楽器の位置・音が出る方向の設定
下記の画像は、ピアノの設定画像です。赤枠の部分を見てみましょう。
ホールのどの位置に置いているかを、設定しています。
奥に置けば遠い音になりますし、近ければより近しい音になります。
また、驚くべきは、SOURCE画面です。
例えばピアノは、前方に音が出るだけでなく、横や後ろ、上側にも音が出ていますよね? そうした個々の楽器の持つ特徴を設定出来るのです。
場所&音の出る方向を詳細に設定することで、Lyndhurst Hallでその楽器が鳴ることを、詳細にシミュレートできるわけです。
Spitfire AudioのYouTubeでは、「ホルンは音が後ろに飛ぶから……」といった楽器の設定の様子が見られます。(↓該当箇所から見られます。)
マイクミックス
面白いのは、マイクが8本選べることです。
Spitfire同社の音源プラグインでも、マイクバランスを変えて音作りをしますよね。例えば、Chamber Stringsなら、Close・Tree・Ambienceの3種類のマイクバランスを変化させられます。
Air Studios Reverbは、マイク設定のない音源に、マイクバランス調整機能を追加するかのようなイメージで音作りできるのです。
別会社のInspired Acostics社のInspirataも、自由に場所を移動できるリバーブとして有名です。
Inspirataは、音源ソースの位置と観客として聞く位置をそれぞれ設定し、その位置で聴いたらどんな音がするかを再現できるリバーブです。そもそもの設計思想が全く違うことが分かりますよね。
例えば、UVI Toy Suiteのおもちゃのウクレレを、Lyndhurst Hallで収録した上で、複数のマイクを使ってふくよかな音にする……なんてことも自由にできるわけです。
Lyndhurst Hallで、おもちゃのウクレレを演奏するという、背徳感を感じる行為も難なくシミュレーションできます。
ただ、こうした特性上、Air Studios Reverbを使う場合は、クローズマイクで収録された素材に対して使うのが適しているでしょう。部屋鳴りしているトラックは、既に収録場所が定義づけられた音源とも言えるからです。(*馴染ませるために少量使う分には問題ない。)
音源の中でマイク選択できるなら、クローズマイクを単独にします。音源の中でリバーブが付いている場合は、OFFってから、Air Studios Reverbを使います。
その他の機能
ホールを再現するIRリバーブですが、リバーブタイムは伸縮できます。
SHAPE画面から、Strech Modeを5種類から選べます。
*Retro・Granular・Complex(Low/Med/High)
その上で、Early Stretch・Tail Stretchを、50~200%まで調整できます。
少し分かりにくいのが、左端に位置するDirect levelでしょうか。マニュアルによると、「リバーブ・エントリーにトランジェント・レスポンスを加えるには、このコントロールを大きくします。(DeepL訳)」と書いています。
Direct Levelを上げると、ドライ音に近い響きを追加できます。Mixを上げてDry音を混ぜると、良い感じに滲む場合と、滲みが邪魔だと感じる場合があるので、適宜ミュートする必要もあるでしょう。
EQセクションは、PRE(リバーブをかける前のEQ)か、POST(リバーブをかけた後のEQ)かを選択し、どちらかにEQをかけることができます。
サンプル音源のミックスについて
ダブリングしたエレキ
今回はエレキで、Three-Body Technology Heavier7Stringsを使用しています。
Heavier7stringsは、ダブリング機能を使って、左右に音を振ったエレキを再現できます。
これをAir Studios Reverbで使って、響きを追加します。ホール中央にエレキをセッティングして、アンプを3m離した状態の音を再現してみます。
私的には、⑥の音はこじんまりとして、音が弱まってしまったように感じました。また、ステレオにMAXでパンニングされているソースなので、Air Studios Reverbで使うと、実際にどのように楽器が配置されているのかの意味合いが、よく分かりません。
そのため、Heavier7StringsのLRを分けて出力する機能を使い、LとRにそれぞれAir Studios Reverbを使用しました。
これにより迫力と響きのバランスが取れ、エピックな雰囲気に合うエレキになったように思います。
パーカッション
今回のサンプル曲では、パーカッション類で、それぞれ違うメーカーの製品を使っています。
- ドラム:Superior Drummer3
- パーカッション:Cinesamples CinePerc
- エピックパーカッション:Heavyocity Damage2[PR]
⑧でも、良い音だと思う方はいると思います。
しかし、今回のようなエピックな楽曲を作る場合、すべての楽器がドライで前に張り付いた音というより、それぞれの楽器の響きを積み重ねて全体を作る方が、求める感じが出せる場合も多いでしょう。
そのため、今回は、ドラム・ティンパニ・その他と、3種類のAir Studios Reverbを使って、それぞれの響きを作っていきました。
ドラムは全体を引っ張る意味で、前方に配置。(SD3は、部屋鳴りも含むので、Air Studios ReverbのMIX値を下げ目で使用しています。)
ティンパニは、一番奥から、全体を支えるように。
その他は、Heavyocity Damage2の太い音が、ドラムとティンパニの間を繋ぐような位置に設定しました。
このように、それぞれの楽器の役割に応じて配置・音の方向を指定することで、全体が調和し、一貫性を持ったサウンドを作ることができるのが、Air Studios Reverbの特質すべき点だと思います。
Lyndhurst Hallでは、多くのSpitfire製品が収録されています。日常的にSpitfire Audioの音源を使う人は、他社製品をLyndhurst Hallに染め上げ、より親和性の高いサウンドに仕立てることができそうです。
CPU負荷
使うマイクの本数や、ストレッチの種類等に応じて、CPU負荷が変わります。
35%と一番多くCPUを食っているVoiceでは、マイクを4本使っています。
正直、軽くはないです。
サンプル曲では10個差しています。トラック数が少なければ、全パート行けますかね。
しかしもっと大量に使った上で、他の重たいプラグインを同時にたくさん使うという場合は、全パートでAIR Studios Reverbを使うのは、あまり現実的ではないかもしれませんね。その場合は、フリーズを駆使していくのも、一つの使い方だと思います。
- OS:Windows10 64bit
- CPU:AMD Ryzen 9 3900X [3.8GHz/12Core]
- メモリ:96GB
- DAW:Studio One6.6
- サンプリングレート・解像度:48kHz・32bit float
- バッファーサイズ:1024samples
- オーディオインターフェース:Antelope Audio Discrete4
まとめ
以上が、Spitfire Audio AIR Studios Reverbのレビューです。
ここまで触れていませんでしたが、AIR Studios Reverbを差した状態で、様々な音源をMIDIキーボードで演奏すると、ず~~っと弾いていたくなるほど気持ちが良いです。
私の手持ちのリバーブにはない、まとわりつくような響きと言いますか。叙情的な気持ちが溢れ出して、特に劇伴作家にはインスピレーションがもらえる方が多いのではないかと思います。
エレキの例のように、激しくパンニングされたステレオ素材には、使用に工夫が必要な場合もあるでしょうが、効果は絶大です。CPUとの相談もしながら、使い方を考えて行きたい所です。