Toontrack LA Sessions SDX レビュー|ドライで焦点の合った9キットを収録

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Toontrack LA Sessions SDX は、Neil Youngなどの様々な名盤に携わってきたエンジニア/プロデューサー Niko Bolas氏が監修したSuperior Drummer3拡張音源です。
- 派手に前へ出すのではなく、ドライで焦点の合った、アンサンブルに馴染むサウンド
- キットの個性に合わせて録音場所を変えた4ライブラリ・全9キット
- レコーディングで使われてきたドラマー本人所有のキットを収録
サンプル音源を聴きながら、LA Sessions SDX に迫っていきましょう。
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LA Sessions SDX 概要
LA Sessionsとは
「LA Sessions」という名前は、単に「ロサンゼルスで録音した」という意味だけではありません。
1970年代後半〜80年代のLAでは、TOTOのJeff Porcaroをはじめとする一流スタジオ・ミュージシャンたちが、AOR(都会的で洗練された大人向けロック)やポップスの名盤を数多く作っていました。
タイトだけど人間味があり、各楽器が出しゃばらず、全体でひとつのサウンドを作っていく。
そんな洗練されたスタジオ文化まで含めて、「LA Session」という言葉から連想されます。つまりLA Sessions SDXは、名前の時点で「そういうサウンドに合うドラム音源ですよ」と示していると考えられます。
LA Sessions SDX 所感
音を鳴らして、私が最初に感じたのは、極端に焦点が合ったサウンド。
視力検査のランドルト環の一番小さな奴すら、ハッキリ見えるような感じ。
ドライで精細。
これは、間違いなく今までのSDXにはなかった音です。
LA Sessions SDXには、4つのライブラリが含まれます。
同じスタジオ(Studio D)の別の場所で収録された全9キットの収録です。

全てのライブラリには、Chamberというトラックが含まれます。
これは、Studio Dの実際にあるチャンバールーム(反響室)のドアを少し開いて、サンプル録音中の音を実際に反響させた音が収録されています。
実際に聞いてみましょう。徐々にChamberの音を増やしていきます。
Chamberのフェーダーを上げていくと反響音が増えていきますが、それでもドラムの芯はまったく濁ることなく、ただただフワッと空気感が増えていきます。
リバーブを挿したり、他のSDXでルームの音を加える感覚とまるで違います。
録り音が根本的に違う。と感じさせられます。
Glyn Johns方式のトラックもあります。これは、最小限のマイク(通常3〜4本)を使ってドラムの自然な立体感や空気感を録音する伝説的なマイキング手法とのこと。
OHの「上から見たステレオ像」とは違う、ドラマーの周囲でキット全体がまとまって鳴っている感じが得られるとのこと。
スネアも微妙に左に寄って聞こえたり、ステレオ感があり、包みこまれたような感じがしますよね。
他のマイクと混ざると、芸術作品のような焦点の合ったサウンドに。
このサウンド変化には、ただただ驚くばかりです。
一方で、かなりドライなサウンドが収録されており、どんな曲に使えるんだろう?と迷いが生まれたのも事実です。
そこで、LA Sessions SDXを特別なものにしたエンジニアNico Bolas氏(以下敬称略)を調べてみることにしました。
Niko Bolasのエンジニア哲学
Niko Bolasの作品表
以下の表のリンクは、YouTubeに飛べます。
| 大分類 | もう少し細かい方向 | 主なアーティスト/作品 |
|---|---|---|
| シンガーソングライター ルーツ系 | フォークロック アコースティック・ポップ ルーツロック | Neil Young、Warren Zevon、Tracy Chapman、Crosby, Stills & Nash Boz Scaggs |
| クラシック・ロック ロックンロール | ブルースロック ストレートなバンドロック ガレージ感のあるロック | Keith Richards、Neil Young & Crazy Horse Melissa Etheridge The Waterboys |
| AOR メロディック・ロック | 洗練された80〜90sポップロック、West Coast寄り | Toto、Steve Perry Billy Joel |
| ハードロック | 80〜90sの重量感あるロック | KISS |
| ミクスチャーロック | ファンクロック、スカ パンク、ミクスチャー | Fishbone |
| ソウル/R&B ルーツ・ソウル | アメリカンソウル R&B、ブルース | The Commitments Boz Scaggs |
| オルタナ/アートポップ | 90年代以降の個性的なSSW、オルタナティブ | Fiona Apple |
| カントリー/アメリカーナ | カントリーロック、ルーツ Americana | The Mavericks LeAnn Rimes |
| トラディショナル・ポップ ジャズ寄り | ヴォーカルジャズ スタンダード | Frank Sinatra |
こうして並べてみると、Niko Bolasが関わってきたのは、「シンガーソングライター、AOR、ソウル、カントリー、オルタナ」まで、かなり幅広いジャンル。
特に中心にあるのは、生演奏を主体としたロック・ポップスです。特にフォーク、ブルース、カントリー、ソウルなど、アメリカのルーツ音楽につながる作品が多く、打ち込み中心の現代的なポップスとは少し距離がありますね。
派手に音を前へ押し出すというより、歌とアンサンブルを聴きやすくまとめるサウンドが、Niko Bolasらしさのひとつと言えそうです。
下記の作品は、ロックの例です。
ドラムのアタック感の出方なんかは、参考になるはず。
このキース・リチャーズのドラムは、録音は別の方で、Niko Bolasはミックスエンジニアとしてのクレジットです。
割と汚れて聞こえるような気がしますが、歪ませていると言うより、空間系のマイクをうまく活用することで、丸くくぐもった感触を作っているのかもしれません。
注目するのは、この楽器・ボーカル全体で一体感のあるサウンドそのものです。
Nico Bolasのサウンドの傾向
Niko Bolasの作品を聴いていると、ドラムをガツンと前に出すというより、一歩引いた位置に置くようなサウンドを感じます。とはいえ、ドラムの芯は確かにある。
リバーブも必要以上には使わず、各楽器が比較的近い距離感で、少し平面的に並んでいる印象です。前後の配置は、あまり感じません。
全体は落ち着いて聴こえますし、アタックが耳に食い込む刺激的なサウンドとは言えません。不思議と楽器同士は邪魔をせず、各楽器は非常に聴きやすい。 特にボーカルもスッと入り込んできます。
派手さよりも、アンサンブル全体を整理して聴かせることを重視したサウンドだと感じました。
今回特に気に入ったサウンドは、Boz Scaggsのアルバムでした。
ただし、本作はSteve Jordanのプロデュース・ドラミング・Mixingも関わっているそうなので、Niko Bolas単独REC・Mixing作品というわけではありません。他の作品に比べて、少しリズム・セクションが前にでてきている感触があるのも、そのためかも。
それでも、ドラムの傾向は本SDXの参考になります。
特に、タムの音ですね。
余韻が非常に少なく、アタックが強調された音です。
ちなみに、本SDXには、Steve Jordan氏のドラムが2キット収録されています。
Niko Bolasのエンジニア哲学
Nico Bolasのエンジニア哲学の一つに、自分のエゴをできるだけ外すという姿勢があるようです。インタビュー記事の中で、
- アーティストの言葉を音に翻訳するのがエンジニアの仕事
- 自分は相手のための「パレットと筆」
と、答えています。
しかし、逆説的なんですが、その「出しゃばらない哲学」自体が強烈なNiko Bolasらしさになっているというのが面白いところです。
だって、携わってきた音源を聞いたら、どれもNico Bolasの音なんですよ!(笑)
エゴを外した結果、強烈なNicoの音。もちろん、そのサウンドを求めてアーティスト側もオファーするということはあると思いますが、これは面白い。
本SDXを購入するか否かを判断する上で、上記の表の代表曲たちを聞くと、このドラムの立ち位置が分かりやすくなると思います。
ライブラリと収録キット
さぁ、Nico Bolasを理解できた所で、本SDXの特徴がより見えてきました。
キットにはそれぞれドラマーの所有者がいます。
音の方向性を鑑みて、録音場所を変えて収録されているのも特徴。
それぞれのルームごとに、デモ曲を作ったので聞いていきましょう。
Piano Spot
グランドピアノ付近で収録され、開放したピアノ内部にもマイクを設置。
ドラムによって、ピアノ弦が共鳴する成分まで収録されており、通常のRoomとは少し違う、複雑なアンビエンスを持っています。
| Kit | 所有者 | 実使用歴/想定サウンド | 音の方向性 |
|---|---|---|---|
| Indigo Kit | Russ Kunkel | James Taylor、Carole King、Crosby, Stills & Nashなどで知られるKunkel本人のレコーディングキット | ルーツ系SSW/セミアコースティック・ポップ。温かく自然で、歌を邪魔しにくい方向 |
| Newspaper Kit | Anthony LoGerfo *元はNeil Young所有 | Neil Youngの多数の作品で実際に使われてきたキット | Organic / Fat Rock。太さとパンチを持つ、荒々しすぎないロック向け |
ピアノ弦の共鳴をRECしているなら、ふくよかな印象なのかな?と思いつつ、最初に触れた時は、ドライな印象に驚いたライブラリでもあります。

スネアだけ、ライブラリにあった、もう1本に変更。
今回は、Chamberを上げ目に設定しています。
スネアにリバーブが欲しかったのですが、Plateを挿してもしっくり来ず、今回はChamberのBleed設定からSnareだけ多めに送るようにするとしっくり来ました。
Newspaper Kitに変えると、少しキレのある印象に。
面白いのが、同じようにアコースティックギターを使ったサンプル曲を作ったState of the Art SDXとは、全く違う音になったこと。

State of the Arts SDX は音がはっきりしてるし、重量感があるサウンドですよね。だから、アコギもキラキラとした原音を活かす方向にしています。
一方、LA Sessions SDXは、同じアコギを使っていても、ハイカットしてドラムに馴染ませたくなるんですね。
LA Sessions SDXのメイキングビデオの中に、Nico Bolasが「ある1本のマイクのドラム音が自分を感じさせるなら、そのマイクを上げて、その音のために曲を書けばいい。」と言っていました。
まさしく、そんな感じで、ドラムが導いた音で曲を書いたら、こうなった。って感じがします。
Studio Floor
Studio Dのメインフロアで収録。
反射を抑えつつ、適度な部屋鳴りを残す設計で、Toontrack自身も 「輪郭が明確で、まとまりがあり、パンチもある。ややドライなサウンド」 と表現。
| Kit | 所有者 | 実使用歴/想定サウンド | 音の方向性 |
|---|---|---|---|
| Koa Kit | Denny Fongheiser | 数多くのセッションで使われてきた1970年代Rogers Powertone | 70年代のクラシックでドライな音。ポップ、ロック、SSW系に合わせやすい |
| Ebony Kit | Steve Jordan | The Rolling Stones『Hackney Diamonds』や、その後のツアーで使用されたGretsch | Classic Rock。タイトでパンチがあり、まとまりの良い王道ロックサウンド |

クラシックロック風ですね。
スネアの上に乗っているHolo Ringは、私が触れてきたSDXの中では初めて登場。サステインを短く、音程を少し下げ、太く・丸く・フォーカスされた音にするためのミュート機具です。
シャリッとした質感も、スネアに微かに乗っていて、非常に気持ちいいです。
The Riser
床から少し高くなった位置で収録されており、近接音はフォーカスを保ちつつ、Roomにはより深いアンビエンスが得られる設計です。
大口径・パワー系のキットが集められています。
| Kit | 所有者・由来 | 実使用歴/想定サウンド | 音の方向性 |
|---|---|---|---|
| Sunset Kit | Kenny Aronoff | Jon Bon Jovi『Blaze of Glory』など、多数のロック作品で使用 | Big Rock。太く、力強く、LA Sessionsの中では比較的大きく鳴らす方向 |
| Big Kick Kit | Charley Drayton | Keith Richards、Bob Dylan、Neil Youngなどで知られるDrayton本人のキット | Open / Raw / Ringy。26インチKick+18インチFloor Tomによる、大口径で開放的なサウンド |

先程の同じサンプルで差し替えてみます。
お。
こちらは、音の押し出し感が若干増していますね。高域も若干パリッとしています。
Riserの方が、現代の楽曲に使えそうなシチューエーションが見える気がします。
キックはドッという感じで、深い胴鳴り音がないのも特徴的。
Vocal Booth
密閉度が高く、Decayの短い空間で収録されています。
そのため、ドライで親密な音像。
ただし、デッド過ぎるのとも、また違うんですよね。中でもSteve JordanのOpen Kitは、シェルとヘッドをしっかり鳴らす方向の、非常にサスティンが長いサウンドです。スコーンと気持ちいい。
| Kit | 所有者 | 実使用歴/想定サウンド | 音の方向性 |
|---|---|---|---|
| Bone Dry Kit | Stella Mozgawa(Warpaint) | Mozgawa本人の個性的な小口径キット | Indie / Post-Punk / Dry Pop。徹底的にミュートされた非常にドライなサウンド |
| Open Kit | Steve Jordan | Jordan所有のSakae Trilogy | Jazz/Singer-Songwriter。小口径で温かく、オープンに鳴る方向 |
| Foundaround Kit | Shep Lonsdale | Tabla、Djembe、Doumbek、Klong Yawなどを組み合わせた特殊キット | Percussion / Organic Groove。民族打楽器をドラムセット的に扱える特殊な構成 |
また、面白いのは、タブラ・ジャンベなどの、民族打楽器が入ったキットがあることです。

非常におもしろいですよね。
何らかの民族楽器を入れたい場合、専用の民族楽器音源を使うと、空間処理の違いから、結構違う質感になることは多いです。
このライブラリでは、ドラム音源と同じ条件で録音されているので、ポップスにも手軽に組み込むことが出来そうです。
CPU負荷
Superior Drummer3のCPU使用率は、中のエフェクト使用状態にもよります。

Niko Bolasのプリセットについては、ほとんどエフェクト処理がされていませんので、かなり軽いです。
- OS:Windows11 64bit
- CPU:AMD Ryzen 9 3900X [3.8GHz/12Core]
- メモリ:96GB
- DAW:Studio One7.2
- サンプリングレート・解像度:48kHz・32bit float
- バッファーサイズ:1024samples
- オーディオインターフェース:Antelope Audio Discrete4
まとめ
以上が、LA Sessions SDX のレビューです。
クラシックロックやシンガーソングライター、ルーツ系の音楽を中心に、ドラムを必要以上に前へ出さず、アンサンブル全体の中で聴かせたい時に強いSDXです。ただし、Riserのように、音を前に出せるライブラリも収録されていますので、使いようですね。
最初に鳴らした時は、そのドライさと、異様なほど焦点の合ったサウンドに戸惑うほどでした。ただ、Niko Bolasが携わってきた作品を聴き、そのエンジニア哲学を知ることで、サウンドの意図が見えてきました。
特に面白いのは、同じような構成でサンプル曲を作っても、State of the Art SDXとはまるっきり違う音作りになったこと。SDXシリーズは、音源からMIXや曲そのものを導いてくれるんですね。
一方で、最初からビッグで派手なドラム・キリっとしたサウンドを求めるなら、ロック・メタル系、他にはStories SDX・Hitmaler SDXなど、別の選択肢の方が早い場面もあるでしょう。
LA Sessions SDXは、誰にでも分かりやすく派手な音源ではありません。
だからこそ、この質感が必要な時には代わりが効きにくい素晴らしいSDXだと思います。
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