VI Labs Ravenscroft 275 レビュー 絶妙なバランス感のピアノ音源
VI Labs Ravenscroft 275は、最低価格3,000万円とも言われるアメリカのRavenscroft社のピアノをVST音源化したものです。
- 近すぎず遠すぎず、絶妙の空気感のサウンド
- ベロシティに対するサウンド変化が見事!
- ポップスはもちろん、クラシック寄りのサウンドも。
私自身は、Ravenscroft 275を購入するまでは、Spectrasonics Keyscapeをメインに使用していました。
Ravenscroft 275とKeyscapeは、収録されている距離感が全く異なります。そのため、曲に応じて使い分けができ、今ではどちらも非常に重宝しています。
サウンドで比較しながら、Ravenscroft 275に迫っていきましょう。
サウンドを聴いてみよう!
アンサンブル
まずは、アンサンブルの中で、どのように聞こえるか聴き比べます。
比較は、Ravenscroft275・Keyscapeで行います。どちらもEQで軽く補正、リバーブを軽くかけています。(コンプはなし。)
どちらが好みかは、人それぞれでしょう。
私の印象としては次のようになります。
①Ravenscroft275は、和音がダンゴにならず、分離されて聞こえる。演奏しているピアノを少し離れて聴いている感じがする。色気がある音。
②Keyscapeは、和音が密着して、合体して聞こえる。ピアノの真横に耳があるような近さを感じる。Spectrasonicsということもあり、低音域が豊満な印象のサウンド。堅実な音。
これだけ書くと、②Keyscapeの音を貶めるように聞こえるかもしれませんが、もっと音数が多い楽曲では、Keyscapeの密度の高い音の方が、前に出てきてくれたりもします。
逆に音数が多くない楽曲、空気感を出したい楽曲に関しては、Ravenscroft275の色気のある音を選びたくなります。
ピアノソロ
次はピアノ・ソロで聴き比べてみます。
*私は、ピアノ演奏はできません。MIDIキーボード&マウスによる打ち込みであることを念頭に、下記を聴き比べて頂けたらと思います。
③Ravenscroft275は、一音一音の分離感が良く、音が生きている感じがします。
④Keyscapeは、音に一体感があります。一音一音が整っているため、音同士が馴染み、最初から完成された音、という感じ。悪い言い方をすると、整いすぎているようにも感じます。
ベロシティ調整はRavenscroft275の方がシビアで、少し手間がかかる印象はあります。
Ravenscroft275とKeyscape
Ravenscroft275は、ベロシティに対するサウンドの変化が見事です。例えば、強いベロシティで低音域の鍵盤を演奏すると、キーーーンという倍音が生々しく聞こえます。
ガツーンとくる音ですよね。
Keyscapeでも、低音域を強く演奏するとキーーーンと聞こえますが、なんというか……「そういうサンプルが鳴っているんだな。」と、メタ思考に陥る音と言いますか。
高音域を弾いても同じですね。Ravenscroft 275は、細かなベロシティ変化に追従して、打鍵音も気持ちが良い。
私は実際のピアノを演奏する機会がほとんどありませんので、こんなことを言っても眉唾ものかもしれませんが、Ravenscroft275は楽器を演奏している感じがする音源です。
かつてKeyscapeに初めて触れた時、私はKeyscapeに同じように感じたはずなのに、一度Ravenscroft275を触ってしまうと、Keyscapeは「ピアノの音がするVST音源」であって、実際にピアノの練習などで使う時の楽しさは、Ravenscroft275には敵わない印象です。
*あくまで私的な意見ですので、Keyscapeをお使いの方、怒らないで下さい……。
音数が多く密集しているアレンジの場合は、Keyscapeを使った方いい場合も往々にしてありますので、曲によりきりであることは間違いありません。
機能紹介
マイクによる音の違い
4箇所のマイクポジションで、音を作ります。
CLOSE:ピアノ内部の弦とハンマーの上に配置されたマイクのミックスにより、パンチのある詳細なトーンと大きなステレオイメージを捉えることができます。ポップスやモダンな演奏に最適で、あらゆるミックスに対応します。
PLAYER: 鍵盤の前に座っている時に聞こえる音をとらえ、ハンマーのアタックをより強調するステレオペアです。クローズ・マイクよりも遠くの音を拾うため、クラシックや奏者の視点に立ち、他のマイクとのミキシングにも適しています。
SIDE:ミッドサイドのビンテージU87をリムの外側にセットアップし、暖かさとディテールのバランスを、よりフォーカスしたイメージで捉えます。ジャズやクラシックに最適で、他のマイクとブレンドして、より広い空間やディテールを追加することができます。サイドマイクは、ミッドサイドという特性上、モノラルにも完全に対応しています。
ROOM:ピアノから離れた位置にあるマイクのミックスで、楽器の全体像と部屋の特性を捉えます。クラシックやルーム・サウンドのユニークなパースペクティブに最適で、他のマイクとブレンドしても効果的です。
一番くっきり聞こえるのは、Playerマイクでしょうか。
実際には、4つのマイクの音を混ぜるというより、1つか、混ぜても2つ程度を混ぜる場合が多いのではないかと思います。
プリセットは?
プリセットは5つ収録されています。
実際には、ただ初期状態が違うだけです。
例えば、Ravenscroft 275 Playerというプリセットなら、Playerマイクのみ100%の状態で読み込まれます。
また、Ravenscroft 275というプリセットは、Closeプリセットと同じく、Closeマイクで読み込まれます。(だから、実質プリセットは4つ。)
リペダルなどの詳細な設定が可能
ペダルコントロールは専門的なことも多いので、詳細な説明は公式ページを日本語化して読むのが良いでしょう。
特に打ち込みする上で気をつけたいのは、Repedalという機能です。
Repedalは、サスティンペダルを踏み、上げてから短時間で踏み直すと、音の持続がなお続くというものです。
上げる時間に応じて音の持続具合が変わり、少し音を滲ませて残したり、完全に音を切ったり調整できます。これは実際のピアノの挙動を再現しているものだそうです。
知らないで打ち込むと、サスティンペダルを上げても何故か音が残ってしまい、四苦八苦することがありますので、お知らせしておきます。
また、ハーフペダルが使えます。サスティンさせすぎると濁るが、完全にサスティンがないと途切れがちに聞こえる場合、ハーフペダルを使うのがおすすめです。中々ハーフペダル対応しているピアノ音源は少ないので、貴重です!
CPU負荷
Ravenscroft 275のCPU負荷は、発音数に応じて変わります。
普通に使っている分には、5~10%ほどが、音数が多い時は、10~20%ほどで推移します。
読み込みに少し時間がかかりますが、動作自体は機敏です。
●PCスペック
- OS:Windows10 64bit
- CPU:AMD Ryzen 9 3900X [3.8GHz/12Core]
- メモリ:64GB
- DAW:Studio One5.5
- サンプリングレート・解像度:48kHz・32bit float
- バッファーサイズ:512samples
- オーディオインターフェース:Antelope Audio Discrete4
まとめ
以上が、VI Labs Ravenscroft 275のレビューです。
生のピアノはビリビリと身体を震わる程、音も大きく迫ってきますから「生ピアノのように」とまでは言いません。でも私自身は、(下手くそながらも)Ravenscroft 275を弾くのにはとても楽しさを覚えます。
楽器を操る感触が感じられる素晴らしいピアノ音源だと思います。